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1章・封使館①
「ここで、あってるよな?」
東京都、西新星駅。
人の波にもみくちゃにされて、その渦にのまれながら紫苑はどうにか改札をくぐった。
邪魔にならないよう、改札の近くにある券売機の横の壁にもたれかかり一息ついた。
初めての東京。
予想していたより、遥かに人が多い。
時間帯はお昼時で、通勤時刻では無いにも関わらず、駅は行き交う人でごった返している。
まるで、大きな洗濯機の中に沢山の人間が放り込まれて洗われているみたいだ。
どこを見ても人、人、人。
様々な人が、様々な目的と意志を持って、様々な方向に移動していく。
そのうねる人の波を見ているだけで、少し気分が悪くなった。
紫苑は床をじっと見つめることにした。
左腕の真新しい腕時計に視線を落とすと、ハァとため息をついた。
アナログ式の時計は、一時四十分を差していた。
(さすがに二十分前は早すぎたかな------)
紫苑は少し後悔する。
多くの人々が行き交う西新星駅の隅っこで、紫苑と彼の足下に置かれた大きな鞄は、完全に取り残されていた。