2章・ゲームスタート①
「まずいなぁ……」
紫苑は扉のあった場所を見つめながらつぶやいた。
どういう原理で扉がなくなったのかはわからないが、なくなったことは不変の事実+
どうしたら扉が復活するのかは不明
=どうしようもない
見事な式が成立した所で、紫苑は目の前に迫っている闇の中を覗いてみようかという衝動に駆られた。
扉がはめられていた壁の横には小さなボタン。
ON、OFFと書かれていることから、おそらく扉の中の照明のスイッチだろうと推測される。
紫苑は手をボタンに伸ばしかけて、触れる直前でためらったように指を止めた。
(相模やアローディスは僕にここを見られたくないみたいだった。もしかしたら、危険な場所かもしれない……)
真面目な男子高校生か、小心者の意見なのかはわからないが、紫苑の心の一部はそれを主張していた。
その時------。
【何をためらっているのだ?】
不意に頭の中に響いてきた声に紫苑はビクッと肩を縮めた。
おそるおそるといった風に紫苑は声を発する。
「だ、だれ……?」
【私は名前がない。
だが、存在はある】
紫苑は警戒を解かないまま、再び話しかける。
「じゃ、じゃあ……君はどこにいるの?」
当たり前だが、辺りには誰もいない。
それに人の気配もない。
では、一体どこから話しかけてきているのか?
【私は、中にいる。
少年、お前が今立ち尽くしている部屋の中だ】
紫苑は大きく目を見開いた。
だが、いくら目を凝らしても、闇に慣れることはなかった。
【私は、ずっと一人だった。
暗い暗い闇の中で。
やっと来てくれた客人に、頼み事をしたい】
紫苑は声の主が哀れになった。
こんな暗い闇の中にずっと一人でいるなんて、紫苑には考えられない。
紫苑は同情からか、つい叫んでいた。
「僕にできることならなんでもするよ!」
【------本当か?】
「うん!」
【感謝する】
端的に述べられた礼は、あっさりしたものだったが、ほんの少しだけ、先ほどまでより温かみを含んでいた。