2章・偶然と必然-異界の扉-⑦
相模を探して、紫苑はうろ覚えの屋敷の中を一号館から三号館まで歩いていった。
「なんでどこにもいないんだろう?」
一応、昨日案内してもらった場所は全て見て回った。
後、考えられるのは一カ所だけだ。
そして今、紫苑はその場所の前に立っている。
そう、そこは昨日相模に立ち入りを禁止された場所------地下へと続く階段。
薄暗い階段の中には、暖色系の光を放つ蛍のような蛍光灯が一つ、ぼんやりと光っていた。
地下からは、ひんやりとした冷気が流れてきて、紫苑の頬を撫でる。
(------------)
紫苑は階段の一段目に右足をできるだけそろりと下ろした。
ギシッ
階段は古い木でできているらしく、紫苑の重さに小さく悲鳴を漏らす。
紫苑はできるだけ足音を立てないように気をつけながら、ゆっくりと階段を下りていった。
どれだけ段を踏んだことだろうか。
長く薄暗い階段の終点が見えてきた。
先の方からぼんやりと光が差し込んできていて、紫苑の足が柔らかい絨毯の感触を伝えた。
「------------っ」
紫苑は声が出なかった。
喉元でつっかえてしまったように、あるいは声の出し方を忘れたかのように、目の前を呆然と見つめていた。
紫苑の視線の先には、見上げるほど巨大な木の扉。
だが、普通の扉ではないことははっきりとわかる。
何故なら、扉は天井にぶら下がっている古ぼけたシャンデリアの光を浴びて銀色に光る鎖で雁字搦めにされていたのだから。
紫苑は何かに引き寄せられるかのように自然と扉に近づいた。
その扉の中から、冷蔵庫を開けた時のような冷気が溢れ出してきているのがわかる。
吐く息がうっすらと白みを帯び、紫苑は身震いした。
「ハックショ------ン!!」
思わずくしゃみが出た。
広いホールのような、ドームのような形状をしているせいで、それは大きく響いた。
そう、それがいけなかった。
くしゃみさえしなければ、あんな事にはならなかったかもしれなかったのに……。