2章・偶然と必然-異界の扉-⑥
入学式を終えて、封使館に帰ってきた紫苑はもやもやした気分で一杯だった。
黒いリムジンで迎えにきたのは相模ではなく、今まで見たこともなかった男だった。
相模ならば、今日知ってしまった事実を問い詰めようと思っていたのだが、リムジンを見て最高潮に達したもやもやは、男を見て一気に冷めてしまった。
相模はまだ紫苑の前に姿を現さない。
紫苑はもやもやを抱えながら、ベッドに寝ころび天井を仰いでいる。
あの後、結局講堂で挨拶を述べさせられることになり、紫苑は緊張しながらもなんとかやり遂げた。
だが、その時にされた紹介が、いささか内容的にまずかった。
『封使大臣の孫』
そう紹介され、講堂をざわめきが雷のように走った。
挨拶を述べている間も、その後も、視線を常に感じ、息苦しかったことこの上ない。
教室に帰ると、あれほど取り巻きに囲まれていた玖柳院が、わざわざ紫苑の席にきて、友達になろうと申し出てきた。
(もちろん、適当にはぐらかしたが)
玖柳院のこの行動により、紫苑はクラス中の生徒からあれやこれやと話しかけられ、全てに曖昧な返事を返していた。
(いい気なもんだよ……。
すぐに手のひら返すような連中、僕は好けないな)
紫苑の中で、もやもやがどんどん積もっていく。
それが小さな山となり、新たに積もるもやもやがサラサラと流れ始めた時、紫苑はベッドから跳ね起きた。
「うわぁ------!!ダメだっ!」
全ての部屋が防音構造であることを相模から聞いていた紫苑は大声で叫んでみる。
もやもやは消えそうにない。
こうなったら------と、紫苑はベッドから抜け出した。
相模を探そうと決意したのだ。
この状況をわかりやすく説明してくれるのは、きっと相模しかいないだろうと思い込み、紫苑は部屋を出たのだった。