2章・偶然と必然-異界の扉-④
「はい、席に着け------」
入ってきたのは、四十代半ばくらいのがっしりした筋肉質の男だった。
おそらく担任の先生だろう。
ビシッと決めたはずのスーツがどこか外れている。
短く刈り上げた髪には白髪がちらちら混じり、見かけほど若くは無いようだ。
みんなが静かに席に着くと、担任は教卓の上に手をついて教室を見回した。
「入学おめでとう。
俺は一年二組担任の小田切だ。
一年間、仲良くやっていこう」
教室内からぱらぱらと拍手が起こる。
小田切は拍手が止むのを待って、再び口を開く。
「入学式までまだ時間がある。そこで、自己紹介をしようと思う。
出席番号の若い者から、名前、一言を言うように。
わかったか?ではまず、明石」
明石と呼ばれた男子生徒が立ち上がる。
「明石弓彦です。
特技は乗馬で、障害の大会で何回か優勝しています。
よろしくお願いします」
再びぱらぱらと拍手が起こる。紫苑もぼんやりと拍手した。
続いて伊林という女子生徒が立ち上がる。
この学校は出席番号順に席が並んでいる訳ではないので、あっちを見たりこっちを見たりと大変だ。
そして、玖柳院の番がきた。
「玖柳院洋介です。
趣味はヴァイオリンで、幼少時にウィーンに住んでいた際、オーケストラを聞きに行ったのがきっかけで始めました。
機会があれば、また皆さんにも聞いて頂きたいと思います。
以上です」
玖柳院が締めくくるのと同時に、教室中がワッと沸いた。
続いて宮司。
「宮司雅と申します。
一応、華道宮司流の家元をしております。
特技は、生け花です。
お花に興味がおありの方は、是非仲良くして下さい」
やはり教室が沸く。
その次は佐伯だ。
ゆったりとした動作で佐伯が立つ。
「ええと、佐伯侑梨です。
特技は……特に無いです。
よろしくお願いします」
拍手は紫苑を含めて数人ほどがちゃんとしているが、大半は気のない、ただ手のひらを打つだけのものだ。
玖柳院に至っては話すら聞いていない。
これが、格差だ。
紫苑は苦々しく思いながらも、できるだけ表情に出さないよう努めた。
そして数人の自己紹介が終わり、紫苑の番がやってきた。
紫苑は渋々立ち上がった。