2章・偶然と必然-異界の扉-③
がやがやと騒がしい教室。
紫苑はまん中らへんの席に座り、何をするでもなく、ただ頬杖をついていた。
周囲から聞こえてくるのは、話す声、笑い声。
だが、少々たちが悪い。
「玖柳院君、君と同じクラスになれて嬉しいよ!」
「宮司さん、今度私の家にいらっしゃらない?」
同じクラスの玖柳院洋介と、宮司雅。
玖柳院は世界的にも有名な企業、玖柳院コンツェルン総帥の息子で、宮司は華道の宮司流の家元である。
言わばセレブ中のセレブ。
周りを取り巻いているのも、どこかの企業や有名な家の血筋の子が多いのだが、経済力のある大企業の跡取りなどは特別なのだ。
(嫌だな、こういう雰囲気)
紫苑は心の中でため息をつく。
ここはもはや学校ではない。
社交界の縮図なのだ。
比較的小さな会社の子供は、同じクラスであるのをいいことに自分の会社を売り込もうとしている。
「灯馬君」
不意に背後から声をかけられて、紫苑は首だけを後ろに向けた。
くるくるした茶色のくせっ毛と少したれた眠そうな目が特徴的なおっとりした少年が紫苑を見ていた。
後ろの席の、確か佐伯侑梨だ。
ゆっくりめの口調で佐伯はしゃべりかけてくる。
「灯馬君は、あの中に入らないの?」
佐伯は玖柳院を取り巻いている連中に視線を移しながら言った。
「別に……」
佐伯を警戒している紫苑は、言葉数少なく答えた。
素っ気なくも見えるその態度に、佐伯はにこにこと笑っていた。
紫苑は不思議に思って聞いてみる。
「佐伯君は……混ざらないの?」
「僕?」
佐伯は驚いた顔をしたが、すぐに笑みが戻る。
「僕は、ああいうの苦手だから……」
申し訳なさそうに微笑む佐伯に、紫苑は少し親近感を覚えた。
その時、ガラリと扉が開いた。