1章・同居人⑦
「ここが応接室です。
二十人まで収容が可能なので、ちょっとしたパーティーならばここで行われます」
三号館の一階を案内しながら、相模が説明をしていく。
いつもの相模が前を歩き、紫苑が後ろを歩くという構図ではなく、紫苑が気になる所をふらふら歩き、相模が後ろから説明を加えるという感じだ。
「へぇ------」
相模の質問を聞きながら、紫苑は微かに頷く。
実際に歩いてみると封使館は想像以上に広く、一人ならば迷子になる自信が紫苑にはある。
今までに見た中では、ホールが二つに応接間が四つ、使用人の控え室、厨房、食堂、図書室、遊戯室が各一つづつ。
そして客間に至っては数十の部屋がそうであった。
「一通りは説明が終わりましたが------如何なさいますか?」
相模の質問に、紫苑は首を傾げた。
「え?まだ残ってるよ?……ほら」
紫苑が指差した先には、廊下の突き当たりの壁の先に地下へと続いているであろう階段があった。
相模をうかがうと、端正な顔が少し焦りの色を帯びていた。
「いえ、紫苑様------」
「この先はなにがあるの?」
相模のおかしい様子に、紫苑は更に追及する。
その時------。
「この先は貯蔵庫があるのだ。灯馬の少年よ」
背後から低い声がして振り返ると、足音もなく歩み寄ってくるアローディスの姿があった。
「アローディス……さん」
「アローディスで結構だ」
紫苑を少し突き放すようにあしらってから、相模に視線を合わせた。
「相模------」
「……はい」
恐縮したように、相模の声が少しだけ低くなる。
アローディスはスッと目を細めた。
「この少年は明日から学校ではないのか?
入学式とやらに遅れないようにする必要がある。
------違うか?」
「左様でございます」
相模は胸に手を当てて深く腰を折ると、紫苑の背中にそっと手を添えた。
「紫苑様、明日は早いので、今日はもうお休み下さい」
「え、でも------」
相模の態度に違和感を感じる紫苑は、提案を受け入れるのをしぶった。
しかし、アローディスの容赦ない言葉が飛んでくる。
「いいから、休め」
「------はい……」
銀の瞳の威圧感に、紫苑は頷くしか選択肢がなかった。
しぶしぶながらも紫苑は相模に背を押されて部屋に戻り、大人しく寝ることにしたのだった。