1章・同居人⑥
「疲れたぁ------」
部屋に戻るなり肩をがっくり落とした紫苑の姿を見て、相模がくすくすと笑う。
食事の間、部屋の隅に控えていた相模には会話の内容が筒抜けだった。
矢継ぎ早に繰り出されるザックとルナセルの質問に、紫苑はまともに答えることができなかったのだ。
「笑わないでよ……」
じとりと紫苑が相模を見つめると、その視線を感じた相模は軽く頭を下げた。
「申し訳ございません」
だがその顔には、依然として笑みが浮かんでいる。
「あの二人------ザックと、アローディスだっけ?
が、さっき言ってた同居人?」
「左様でございます」
相模は笑顔で頷く。
紫苑はさっきから気になっていることを聞いてみた。
「ねぇ、おじいちゃんは?」
「源一郎様でございますか?」
紫苑は肯定の意味を込めてコクリと頷いた。
「源一郎様は、この屋敷にはいらっしゃいませんよ」
「ええっ!!?」
「今はお仕事のご関係でイギリスにいっていらっしゃいます
ご帰国は一ヶ月後です」
衝撃の言葉が飛び出す。
ということは、だ------。
「僕は、あの三人と一ヶ月の間おじいちゃん無しに過ごすってこと?」
「そうなりますね」
「無理」
「なにが無理なんですか?」
真顔で見つめてくる相模の顔は、一般庶民である紫苑には衝撃が強すぎる。
ほんの少し視線を斜め下にずらして答えた。
「だって、今日初めて会った人達といきなり同居で、しかも頼りにしてたおじいちゃんがいないなんて------無理だよ」
「お三方とも、紫苑様には好意を抱いておられますよ」
「------------」
黙りこくる紫苑に、相模は笑顔を崩さないまま、とある提案をした。
「紫苑様」
「?」
「屋敷の中を気分転換に散策なさってはいかがでしょう?」
キョトンとする紫苑に、相模は続ける。
「今日から三年間、紫苑様の家になる訳ですから。
私がご案内致しますよ?」
「それいいね。うん、行こう」
少しだけ笑顔になった紫苑に、相模は部屋の扉を開けた。