13/78
1章・同居人④
「------紫苑様」
意識の遥か彼方から、弦楽器のように落ち着いた響きをもつ声が響いてきた。
その声の心地よさに、紫苑は寝返りをうちながら鼻から大きく息を吐いた。
「------紫苑様。
夕食の支度が整いました」
ぼんやりと目を開けると、微笑んだ相模の顔が間近にあるのに気がついた。
「っ!------うわあ!」
ベッドから跳ね起きると、相模は丁寧に一礼した。
「おはようございます。
よくお休みになられましたか?」
「あ、うん」
紫苑が頷くと相模は満足そうに笑みをたたえる。
「夕食の時間となりましたので、失礼ながら起こさせて頂きました」
「今何時?」
大きなあくびをしながら尋ねると、時計を見ることなく相模は答える。
「六時三十一分です」
屋敷に着いたのがちょうど三時頃。
ゆうに三時間は眠っていたことになる。
紫苑は眠い目をこすりながら、相模に言う。
「行こうか」
「はい」
そうして二人は部屋を後にした。