1章・同居人②
門の前に着くと、中から少年が出てきた。
紫苑を見上げてキョトンとする少年は、紫苑の腰くらいまでしか身長がない。
淡い金色のふんわりした髪に、ハワイの海のように透き通ったセルリアンブルーの瞳。
おとぎの国の王子様なんだよ、と言われても、十分納得がいくほどにかわいらしい。
「あれぇ?お兄ちゃん、誰?」
十歳くらいの少年は、上目遣いで紫苑を見つめた。
紫苑がなんと言おうか迷っていると、隣に立っていた相模が口を開いた。
「ルナセル様。
この方は本日より、この封使館にお住まいになる灯馬紫苑様でございます」
へぇ------とつぶやくと、ルナセルと呼ばれた少年は眩しいくらいの笑顔で紫苑を見上げた。
「トーマってことは、源一郎の言ってた人だよね?
初めまして、僕はルナセル。
これからよろしくね、紫苑お兄ちゃん!」
まだ幼い発音の仕方を微笑ましく思いながら、紫苑は差し出された小さくて白い手を優しく握りかえした。
「こちらこそ、よろしく。
ルナセル」
そんな様子を笑顔で見ていた相模が声をかけてくる。
「紫苑様、そろそろ参りましょう。
ずっと馬車の中で、さぞお疲れでしょうから」
「そうだね」
ルナセルは頷くと、握っていた手をそっと離した。
「じゃあ、また後で会おうね、お兄ちゃん。
あっそうだ------相模」
「はい、なんでしょう」
「僕、ちょっと森で遊んでくるよ。
晩ご飯までには帰るから!
じゃっ!」
言うが早いか、ルナセルは紫苑達が来た道を元気よく駆けていった。
「かしこまりました。
どうかお気をつけていってらっしゃいませ」
相模が腰を折って礼をするが、ルナセルの姿は木々に紛れて見えなくなっていた。
(足の速い子だなぁ……)
「相模さん、今の子は?」
「ルナセル様のことでしょうか?」
「うん」
「あの方は、この封使館にずっとお住まいになっていらっしゃるのです。
ちなみに、後お二方がこの屋敷にお住みですが、どちらの方も灯馬家の血縁の方ではございません」
ふむふむと納得する紫苑を横目に、相模は真鍮製の取っ手を握り引いた。
巨大な大邸宅にあるような重そうな扉を、片手で開ける相模。
その細い体のどこにそんな力があるのか。
紫苑はそんなことを考えていたが、屋敷の中の様子に目を奪われた。