好きだけどー③ー
文章書くのって難しいです‥;;
好きだけどー③ー
『玲ちゃーん!優ー!お昼ご飯できたよー。降りてらっしゃーい』
『『はーい』』
話に花を咲かせていた2人は揃って部屋を出た。
リビングのテーブルには出来立ての焼きそばと肉まんが用意されていて、BGMには昼ドラが流れている。
4人掛けのテーブルは、優希の母と玲奈の父が再婚した記念に購入したお祝いの家具だ。
母ー紀子ーが座っている向かい側に優希が座り、その隣に玲奈が座った。
玲奈は焼きそばにたっぷり青海苔をかけると、グラスにオレンジジュースを注ぎ美味しそうに食べはじめた。
外出先では青海苔が歯に張り付くのが気になって大好きな焼きそばが食べられない、と嘆いていた玲奈のために、紀子は玲奈が自宅にいる日の昼食には必ず焼きそばを作るのだ。
娘になった玲奈に対して、紀子は甘い‥と言うよりも気を使っているようだった。
『‥でね、“オシャレ大学生”っていう題材で透さんが行ってる大学に取材入ったんだって』
半分ほど焼きそばを平らげた玲奈は、オレンジジュースを喉に流し込み話し出した。
『あぁ、あの医大有名だもんねー。それで?』
優希が相打ちをうちながら話の先を促すと、玲奈は部屋から持ってきた雑誌をパラパラめくりながら言った。
『そうそう、で、その日大学にいた人がランダムで選ばれてインタビューされたらしいんだけど!透さんインタビュー受けたみたいで雑誌に載ってたんだよ!?すごくない?!やばいよね!!見てみてこれこれ!!ちょーかっこいい!友達に知り合いなんだよって自慢しちゃった。会いたいって言われたけど無理だよね。ね、ね?すごくない??ただのインタビューなのに透さんで見開き1ページ埋まってんだけどっ。これやばいよね、全身写真だしカラーだしっ』
玲奈は一気にまくし立てるように言うと、ハイティーン向けの雑誌をバシッとテーブルの真ん中に叩き付けた。
『玲、静かに置いてよ。‥‥わ、うそ‥、すご‥‥』
優希が肉まんを口に入れながら雑誌を覗き込むように見を乗り出すと、向かい側に座っていた紀子も雑誌に注目した。
そこには、青いポロシャツにタイトなジーンズを穿きこなす透がいた。
長い脚をゆったりと組みベンチに腰掛けているところだ。
ポロシャツのボタンは2つほど外されていて、そこからシルバーのネックレスが覗いていた。
色素の薄い髪は肩先ほどまで伸びていて、風になびいて自由に舞っている。
目にかかる前髪を片手で掻き上げる仕草は透の昔からの癖で、カメラ目線でないところを見るとどうやら不意打ちで撮られた写真のようだ。
奥二重の切れ長な目が見つめる先には友人らしき男子学生がいる。
友人を待っているところだったのだろうか。
父親と母親の良いところを受け継いだ容姿は文句の付け所がないほど整っていた。
『あーら本当だ。透くん美形だもんねぇ。お父さんもハンサムな外人さんだし、お母さんも美人だもんねぇ‥。学生時代、学校のミスに選ばれるのが当たり前みたいだったもんなぁ美佳ちゃんは』
透の母である美佳と紀子は幼なじみで仲が良く、学生時代いつも一緒にいたという。
医大に進学した美佳を追って紀子も医療系の大学に進学し、看護師資格を取った。
紀子は再婚してから専業主婦として家庭にはいり内職など簡単な仕事をするようになったが、美佳は現役外科医師として病院に勤務している。
『‥すごーい。ホント、もう俳優なみの雰囲気醸し出してるよね、これ』
『ホントだよ!なんかの撮影ですかってかんじ!明日実物に会えると思うと楽しみだよね!』
玲奈は心底うれしそうに、その大きな二重の猫目を細めて笑った。
『そうだねー、会うの1年ぶりかな?‥前に会ったのはー‥』
優希が壁に貼られたカレンダーに目を向け日にちを数えている間に、焼きそばを食べ終えた玲奈はガチャガチャと音を立てながら食器をシンクに運んだ。
『あたしは半年ぶりだな。春休みに透さんちに乗り込んで会ったぶりだから‥‥まぁその時は彼女がいるってわかって大人しく帰ったんだけど。‥っていうか連絡も無しに来るなって怒られたし』
『乗り込むって‥玲すごいよ、それ』
優希は玲奈の大胆さにもはや感心するしかなかった。
優希は透と時々メールでの連絡は取るものの、去年の夏休み会った以来、一度も顔を合わせていなかった。
透が大学に進学する前までは、同じ町内に住んでいたこともあり、高校は違ったものの遊ぶ約束をすることもあったし、偶然道で会うこともあった。
しかし透が都内にある大学に通うために一人暮らしを始めたころから、2人はほとんど会う機会がなくなってしまったのだ。優希は透が通う医科大学の附属看護大学に通ってはいるが、キャンパスが逆方向にあるせいで全く関わりもない。
1年生のはじめに気まぐれで参加した、医大生との合コンで知り合った人が運悪く透の友達で。
未成年であった優希が酒を飲んだことがその友達伝いで透の耳に入った時は、それはそれは厳しく叱られてしまった。
それ以来優希はそういった集まりには参加しなくなり、おかげで男の人との出会いもなくなった。
『あぁあっ!!』
アイスを食べながら昼ドラを見ていた玲奈が突然声をあげたので、ぼぅっと考え事をしながら肉まんを咀嚼していた優希はビクッと肩を揺らした。
その様子を見ていた紀子がクスッと笑う。
『ど、どうしたの?』
『どうしようっ優希!予備の付けマツゲ切れてたんだった‥!!あたし買ってくるわっ』
玲奈はそう言って立ち上がると、食べかけのカップアイスを冷凍庫に放り込み、平日の寝坊した朝のような勢いでバタバタと支度をはじめた。
なんだそんなことかぁとため息をつく優希は最後の一口を飲み込み席を立った。
『ごちそうさまー』
『あ。ありがとう』
先に食べ終わっていた紀子の食器も一緒に下げると、ザーッと水を流し食器を洗いはじめた。
『んじゃ行ってくる!!』
『いってらっしゃい』
『気をつけていくのよ。明日早いんだから遅くならないようにね』
『あーい』
玲奈はバックを肩に引っ掛けると、脱兎のごとく家を飛び出して行った。
『‥玲、いつか事故りそうで心配なんだけど‥』
優希がやれやれと首を振ると、紀子は声をあげて笑う。
『そうねぇ。ちょっと落ち着きないし危ないかも‥。でもまぁあなたが落ち着いてるから大丈夫なんじゃない?』
『お母さん、私が落ち着いてたって毎日玲奈の側にいられるわけじゃないんだから意味ないよ』
のんきに笑う紀子に、優希は洗い物をしながら呆れて言った。
『まぁまぁ。高校卒業したら変わるんじゃない?』
『そうかなぁ‥?なんかこのまま大人になっちゃう気がしてならないんだけど』
『そんなことないわよー。‥たぶん』
『たぶんって‥』
それより、と紀子が少し声のトーンを下げて呟いたので、優希は反射的に手を休めて顔だけ紀子に向けた。
『優希は‥‥もう、いいの?』
『‥‥え?』
『透くんのこと、もう平気なの‥?』
『‥‥‥』
優希は紀子から顔を背けると無言で洗い物を再開した。
紀子が言わんとしていることがわかる優希だが、すぐには返事の言葉が出てこない。
平気なわけないよ‥
少しだけ開いた優希の口から出たその言葉は音にならず空気に混じって消える。
自分に背を向けた優希に、紀子は一度口を開きかけたが、何も言わずにゆっくりと閉じられた。
暫しの沈黙は優希の気持ちを落ち着けるには十分な時間だった。
食器を洗い終えた優希は笑顔を作ると、くるりと振り返り紀子を見る。
『平気だよ?今も好きだけど、透さんは私のお兄ちゃんみたいな存在だもん!』
優希の笑顔を見た紀子は、あからさまにほっとしたように息を吐き出した。
『そう、‥よかった。それじゃあ‥れ』
「優希ーーっ!!」
『『?』』
紀子の声を掻き消す音量で優希を呼ぶ声が玄関から聞こえてきた。
「はぁはぁ、定期忘れたー!テレビの上の、あたしの、定期取ってー!!」
息を切らせて帰ってきた玲奈の登場に、2人は顔を見合わすと同時に噴き出した。
『もう、玲奈ったら‥』
優希はテレビの上に置き去りにされた玲奈の定期を手にとると、物言いたげな視線を送る紀子の横をすり抜け玄関に向かった。
『はいっ、定期』
『ん、ってちょっと!』
優希はサンダルを履いたまま手を伸ばす玲奈の手に届くか届かないかの距離で定期をちらつかせた。
『“ありがとう”は?』
優希が腰に手を当てて玲奈を見遣ると、玲奈はうーっと唸り声をあげる。
まるで猫が威嚇しているようだと、優希は心の中で思って笑った。
玲奈は長い腕を精一杯伸ばして定期を奪おうとするが、ギリギリのところでかわされてしまい一向にらちがあかない。
『“あ・り・が・と・う”、は?』
優希がにっこりと笑顔を浮かべてさらにもう一押しすると、玲奈は顔を真っ赤にして怒鳴るように言い放った。
『ア・リ・ガ・ト!!!』
『あはっ!よろしい』
はい、と渡された定期を引ったくるように受け取ると、玲奈はふんっと鼻を鳴らして優希に背を向けた。
『あ、玲奈待って』
ドアに手をかけ出ていこうとするところを呼び止められ、玲奈は不機嫌な表情を隠すことなく振り返った。
『今度はなんなんだよ』
『髪、ぐちゃぐちゃだよ?』
『うっせーな』
『言葉遣い悪いって。じっとして?』
伸びてきた優希の手がほつれた自分の髪を優しく直すのを感じて、玲奈はたまらず俯いた。
『よしよしいい子だ、綺麗になったよ!さぁお行き』
『おまえはあたしのお袋かーーっ!!』
優希が玲奈の頭にポンと手を置きふふっと微笑むと、玲奈はパシっと乗せられた手を払いのけ、先ほどよりも勢いよく家を飛び出して行ってしまった。
『あははっ!玲奈ったら可愛いっ』
優希はクスクスと笑いながらリビングに戻った。
3年前とは比べられないくらいに、玲奈はよく笑うようになった。
優希は玲奈の笑顔が消えないように守りたいと思うし、それが義姉である自分の役割だと思っている。
くつろいでいる紀子を視界に入れつつ、先ほど自分が言った言葉を思い返した。
(透、さんのことは好き。好きだけど‥‥だけど、)
玲奈は同じ部屋にいる紀子にも聞こえないような小さな声で囁いた。
『好きだけど‥私は私の守りたいものがあるんだよ?』
加藤優希
大学2年生
面倒見が良く、真面目で明るい
このお話の主人公です




