好きだけどー②ー
好きだけどー②ー
キャリーケースに洋服やら洗面用具やらを収納し、最後に線香花火の入ったボックスを押し込むと、優希はようやくふうっと一息ついた。
明日の準備は終わった。
壁に掛かる時計に目を向けるともう正午をまわっていることに気づく。
朝から支度を始めたのに、いろいろな事を考えながら用意していたせいで大分時間がかかってしまったようだ。
『‥よしっと。‥もう、くよくよしてても時間は止まってくれないんだからっ』
優希はすっくと立ち上がり、固まった背中をぐーっと伸ばす。
すると隣の部屋からなにやらバタバタと慌ただしい音が聞こえてきた。
『‥玲?』
『ゆーーきーっ!!来てーっ!?』
玲奈が隣の部屋から自分の名を呼ぶ声が聞こえ、優希は苦笑した。
これはいつものことで、玲奈は何かあるとたいてい優希を呼ぶ。
『ねぇーいるでしょー?はやくー!!』
『はーい!今行くよ』
優希は大きなキャリーケースをひょいと跨ぎ、部屋を出た。
“REINA”とローマ字で描かれたネームプレートが下がったドアをノックし、部屋に入る。
そこはまるで異世界のようで。
いつ見ても面白いと優希は思う。
今回はピンク色に統一したようで、カーテンも、マットもベッドカバーもすべてピンク一色だった。
ちなみに前回はオレンジ一色。
壁一面に貼られたアイドルや俳優のポスターに紛れて、透の写真も数枚さりげなく貼られてある。
それを見つけてしまった時、きゅっと心が締め付けられるような思いが優希をかすめるが、知らないフリをしてにっこり笑った。
この3年間やってきたことは習慣化されているようだ。
棚にはカットモデル用だと思われる頭だけのマネキンが5体、ででんと整列している。
夜見たら怖いだろうと思うのは優希だけではないはずだ。
『きたよ。あれ?‥‥玲?』
部屋には玲奈の姿が見当たらない。
ふとクローゼットを見ると明かりがもれていた。
『玲奈?‥着替えてるの??』
『うんっ!!ちょっと待って』
玲奈は170センチという長身を生かして、最近雑誌の読者モデルをするようになった。
スラリと細く長い四肢は玲奈の自慢であり、優希から見ても綺麗だと思える。
そのへんのモデルに引けをとらないプロポーションと、大人びた容姿は玲奈をずいぶんと年上に見せていた。
髪をミルクティー色に染め、うなじが見えるくらいのショートボブに、長く伸ばし横分けにした前髪。
メイクも若干濃い目だが、嫌みなほどではなく玲奈に似合っている。
今年高3の玲奈は18歳だか、ゆうにハタチは越えて見えるのだ。
156センチほどの優希と並ぶとどちらが年上かわからないほど。
そんな玲奈は新しいファッションを見つけると、こうしてまず初めに優希に見せるのがお決まりになっている。
優希はふわふわのベッドに腰掛け、足をぶらぶらさせながら玲奈を待った。
いろんな物が散乱した床は足の踏み場がない。
しかし本人はこれが良いらしいのであえて優希は何も言わない。
部屋の隅には、2つのキャリーケースとパンパンになったトートバックが置いてあった。
毎度ながら玲奈の荷物は多い。
本人いわく、全部必需品で荷物は減らせないのだそうだ。
『おまたせ!じゃーん』
『うわぁ‥可愛い‥!!』
部屋を観察していた優希は、クローゼットからモデル歩きで出てきた玲奈を見て感嘆の声をあげた。
玲奈はうれしそうに笑うと、その場でくるりとターンしてポーズをとる。
良い色に焼けた肌を惜しみなく出した玲奈のビキニ姿は実に魅力的だ。
小ぶりな胸も寄せて上げて谷間ができているし、ほっそりとしたウエストのラインは目を引き付けるるものがある。
優希の良い反応に満足した玲奈は、床に散らかる物を踏み付けて優希の傍にやってきた。
『見て!このビキニ、来年の夏にだす予定のデザインなんだって!この前やった読者モデルの礼の品』
『へぇー!すごい可愛らしいデザインだね。いつもの玲が選ぶ感じとちょっと違うけど‥すごく似合ってるよ!』
『そう!今回は可愛らしさを重視してんの』
玲奈が着ているビキニは紐の部分がレースでてきていて、下は幅の広い太めなレースが使われており、片方だけ自分で留められるようになっている。
全体の生地は落ち着いた淡いピンク色で、ふんわりと可愛らしいイメージだ。
『これ別荘に持ってくんだー。今年も川入るよね?今年こそ可愛らしさを全面に出して透さんを絶対落としてやるんだから!』
優希は鼻息荒く宣言する玲奈に、ほどほどにしなね、と言い柔らかく微笑んだ。
『優希にも似合いそうな水着あったから貰ってきたんだ。あっちで渡すね!』
そう言って無邪気に笑う玲奈を見ると、可愛い義妹の恋を応援したいと思う半面、苦しい感情が沸き上がってくるのを感じた。
それを隠すかのように優希はありがとう!と言って満面の笑みを浮かべた。
加藤玲奈
高校3年生
優希の義妹
我が儘だが真っ直ぐで元気な子




