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08「これからも私を馬鹿にして泣かせなさい」

 入学式は最悪だった。


 新入生代表挨拶はクラリッサに奪われた。

 光属性お披露目イベントは、クラリッサの闇属性の悲劇で上書きされた。

 転倒イベントでは、レオンハルト様に手を取ってもらうどころか、クラリッサに介抱された。


 結果、私が得たものは謎の奇声を上げる新入生という噂だけ。

 それに比べてクラリッサ・ローゼンヴェルトは色々手に入れてる。

 闇属性という希少性と悲劇性。周囲からの畏怖。攻略対象者からのさらなる献身。

 

「プルプル、悪役令嬢破壊爆弾を出して!!」

『そんな物騒なものはないのだよ!』


 お供の妖精も全然役に立たないし、これは由々しき事態だ。


「きぃー! むかつく! あいつをぎゃふんと言わせてやりたい!」

『我には君が悪役令嬢にしか見えないのだよ』

 

 そんなことを考えながら、私は入学記念パーティーの会場で、皿いっぱいに盛ったロースト肉を口に運んでいた。

 入学記念パーティーも異常事態は大発生中。

 本来なら、ここで攻略ルートを確定させる重要イベントが発生する。


 レオンハルトにダンスを申し込まれるか、ガウェインに騎士の忠誠を誓われるか、ユリウスの研究対象にされるか、ジャヴェールに求婚を申し込まれる。

 もちろん私は全員狙いなので、全員分の好感度を回収する予定だった。


 ……のに。


「クラリッサ様……いらっしゃいませんわね」

「闇属性使いということが発覚してしまったんだ、顔なんてとても出せないだろうよ」

 

 クラリッサは入学式の途中で講堂を飛び出したまま戻ってこない。

 そして、レオンハルト、ガウェイン、ユリウス、ジャヴェール――ああめんどくさい、あいつらまとめてクラリッサの四騎士って呼んでやる――も彼女を追って飛び出してから姿を現さない。

 その結果、入学記念パーティーなのに攻略対象がいないという由々しき事態が発生していた。


「……お肉、おいしー」


 平民上がりの男爵令嬢には友達がいない。これは私の性格が悪いからじゃない。

 話し相手もいないまま完全に手持ち無沙汰になってしまった私は、三皿目のロースト肉を頬張っていた。


「まあ、ご覧になって。あの方、お一人で食事ばかり食べられて」


 その時、背後から聞こえよがしな声がした。


「平民出身ですもの。お作法をご存じないのだわ」

「ベルネット男爵家も何を考えているのかしら。ああ、男爵家も爵位を購入するようなお家でしたわね」


 ゆっくり振り返ると、そこにはいかにも貴族令嬢ですという顔をした三人組が立っていた。


「あら、失礼」


 そのうちの一人がよろけたふりをして私に体当たりをする。

 手に持っていたお皿が傾いて、ロースト肉のソースがドレスにべちゃりとかかる。


「いやだわ、汚れてしまいましたわね」

「失礼いたしましたわ。ああ、でもお安いドレスでよかった。すぐに弁償させていただきます」


 平民いびりのいじめだ。他の貴族たちは見て見ぬふりをしているけれど、どこかからクスクスと笑い声が聞こえる。

 私は思わず、主犯の手を握った。


「私の味方はアンタたちだけよ」


 三人が固まる。


「アンタ、入学式で私をすっころばせてくれた子よね! あの時はありがとう!」

「いびられていることがわかりませんの!?」

「いい物語には、いい敵役が必要なのよね。アンタたち、これからも期待してるわよ! 私にはもうアンタたちしかいないんだから!」

「何を期待されていますの!?」


 モブ令嬢たちは、なぜか少し怯えた顔で一歩下がった。

 

「これからも私を馬鹿にして泣かせなさい! 遠慮したらぶっ飛ばすわよ!」

「な、なんて下品なんですの!」

「チャンスはいつ転がってるかわからないの! 1日たりともさぼるんじゃないわよ!」

「この人、頭がおかしいですわ!!」


 きゃあ! と叫び声をあげてモブ令嬢たちは駆け出していく。

 念押ししておいたし、きっと明日も私をいじめてくれるだろう。

 楽しみだなあ、無視されたり、教科書を破かれたり、泉に突き落とされたり、体育倉庫に閉じ込めたり……

 

(特に楽しみなのは刺客を放っての誘拐。とらわれた私を助けるために、四騎士が初めて協力するのよね)

 

 今クラリッサに劣勢気味だから、遠慮なく来てくれていいのよ。怪我したとしても、ヒロインチートの光魔法ですぐに治すし。

 彼女たちの活躍を期待しながら、私は彼女たちの背を見送った。


「……そうよ。私も努力しないとね」

 

 彼女たちの逞しい背中を見て、私も気合を入れなおす。

 劣勢が何よ、私も私でやれることをやらないと。

 ヒロインの立場に甘んじてぼんやりしてちゃいけないわ。


「プルプル、裏庭に行くわよ」

『……嫌な予感がするのだよ』


 私は皿に残っていた肉を全部口に詰め込み、会場を抜け出した。

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