11「サブイベント収集」
まずはレオンハルトを落とそう。
色々考えた結果、私はパッケージヒーローから攻略することに決めた。
攻略対象全員がクラリッサによって攻略済みだと判明したとはいえ、諦める私ではない。
「プルプル! 私はレオンハルトルートに行くわ!」
『正気なのだ!? 彼にはローゼンヴェルト嬢という婚約者がいるのだよ!?』
「だから! そいつから奪うんだってば!」
私の肩に乗っているふわふわ妖精・プルプルは苦言を呈してくるが、攻略対象に婚約者がいる設定を作ったのは私じゃない。
私はあくまで、ヒロインとして敷かれたレールを走っているだけ。
「レオンハルトは王子様枠。パッケージヒーローだから一番イベントが多いし、たいていの人は1周目は彼から落とすことになる。だけど、求められるステータスが高いのよね」
『ならばまず、己の研鑽から始めるべきではないのかね?』
「こっちはイベント全部かっさらわれてんのよ! そんな余裕ないわ!」
兎にも角にもイベントを発生させなければ意味がない。
本来はリリアのステータス上昇に応じてイベントが発生するけれど、そんなうかうかしている場合じゃない。
「【願いの泉】、イベント強制発生装置をだして!」
『ええい! もうどうなっても知らないのだよ!』
私は再びなけなしのお金を泉にぶち込む。
するとプルプルが金色に輝いて、学園中に光の粒子が散らばった。
これはサブイベント収集用アイテム。
このゲームではサブシナリオは学園内に散らばった“光の雫”を集めることで再生が可能となる。これにより、ルートをまたいだキャラクター同士の掛け合いや、何気ない日常のシナリオを堪能することができる。ついでにステータスもアップできるのが利点。
そしてその光の雫を集めるためには――
「うおおお!!!」
走る。
とにかく走る!
廊下を走り、中庭を走り、裏庭を走り、噴水の周りを走る。そして光の雫を集める。
「はぁっ……はぁっ……しんど!!」
私はスカートを翻しながら、学園中を駆け回っていた。
メインシナリオを悪役令嬢に奪われている以上、私はサブイベントを収集することで攻略対象の好感度を上げるしかない。
周回要素でもあるサブイベント収集は過酷で、私は授業が終わると同時に夜中まで走る毎日を送っていた。
「ご覧になって。またベルネット嬢が走っていらっしゃるわ」
「体でも鍛えてらっしゃるのかしら?」
「今更必死になって鍛えたって、ローゼンヴェルト嬢の足元にも及ばないでしょうに」
廊下の端で令嬢たちがひそひそ囁いているけど、そんなものは知ったことじゃない。
私はスライディングして窓辺に浮かんでいた光の雫を掴み取る。
すると、ぱきん、と透明な音がした。
次の瞬間、私の周囲に淡い金色の光が舞い上がる。
光の雫が私の体に吸い込まれ、胸の奥がじんわり温かくなった。
「……来た」
これは加護が満ちた合図。
『光の加護が一定量に達したのだよ』
「つまり?」
『何らかの縁が動き出す可能性があるのだよ』
「よし……レオンハルトイベント……はぁはぁ……発生だわ!」
ゲーム知識によれば、レオンハルトルート序盤のイベントは“休憩中の王太子との遭遇”だ。
王太子として常に完璧を求められる彼が、ふと人目のない場所で疲れた表情を見せる。
そこにヒロインが偶然現れ、彼の弱さに気づく。
「行くわよ……プルプル……」
『今度は何をする気なのだね』
「決まってるでしょ」
私は拳を握りしめた。
「王太子の目の前で、派手にずっこけるのよ!」
『それしか気を引く方法を知らないのかね』
「首洗ってまってなさいよ、レオンハルト!」
私は息を整えると、レオンハルトがよく通る中庭の小道へ急いだ。
「いた!」
木漏れ日の下に、そよ風に金の髪を揺らすレオンハルトがいる。
「よし、作戦結構!」
私は息を整えた。
角度よし、速度よし、視界への入り方よし。
あとは、完璧なタイミングで足をもつれさせるだけ。
「いっけええええ!!」
私は全力で転んだ。
顔面から地面にいく覚悟で地面に体当たりする。
どうせ地面に叩きつけられる前にレオンハルトが助けてくれるのだ、ここは勢いよく行こう。
――そう思っていたのに。
「リリア様!」
ふわり、と薔薇の香りがした。
地面に叩きつけられるはずだった私の体は、やわらかな腕に受け止められていた。
「クラリッサ……!」
「お怪我はございませんか?」
華奢な体のどこにそんな力があるのか、クラリッサは私をしっかりと受け止めている。
そのおかげもあって、私の体は傷ひとつない。
「大丈夫か?」
レオンハルトが立ち上がり、こちらへ歩み寄ってくる。
けれど彼の目は、私ではなくクラリッサを見ていた。
「リサ、怪我をしていないか!?」
「ええ、私は大丈夫ですわ」
「君はベルネット男爵令嬢だったか……? 気を付けないか!」
くっ!
クラリッサの介入があったせいで、目論見が外れて私が怒られる羽目になっている。
「邪魔が入った! 撤退!」
『君を助けてくれた相手に使う言葉ではないのだよ』
不穏な空気を感じ取り、私は全力でその場を離れた。
背後からレオンハルトの声が聞こえる。
「なんなんだ彼女は、はしたない」
「こんなに広い学園なんですもの。走りたくなる気持ちはわかりますわ」
「ふふ、君が走り回っている姿を想像すると、微笑ましいな」
だめだ、失敗だ。
走り去る間際、私は【真実の眼鏡】でステータスを確認する。
レオンハルト:【関心:低 警戒:中 印象:不注意な粗忽者】
今の失敗が響き、関心は低いままに印象だけが悪くなってしまっている。
これじゃあ好感度上昇どころか、低下しちゃってる。
「ぐっ、クラリッサのせいで……! 覚えてなさいよ!!」
私は負け惜しみを叫びながら、再び学園を走り去ったのだった。




