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追放された聖女の辺境ごはん ~私の料理を食べた人がなぜか最強になるんですが~  作者: 月代
【第一章 追放と旅立ち】

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第3話 【神の祝福】の正体



翌朝。


 セフィナが目を覚ましたのは、窓から差し込む柔らかな朝日と、遠くから聞こえる叫び声のおかげだった。


「ぬおおおおおっ!」


 飛び起きて外に出ると、村の広場で信じられない光景が繰り広げられていた。


 あの猟師のボルスが、素手で巨大な岩を持ち上げているのだ。

 大人三人がかりでも動かせなかったという、井戸の横の大岩を。


「ボルスさん!? 何してるんですか!?」


「おお、セフィナさん! 聞いてくれよ! 朝起きたらなんか体が軽くてよ! 試しに岩を持ってみたら、ひょいっと上がっちまって!」


 ひょいっと、のレベルではない。少なくとも五百キロはありそうな岩を、ボルスは片手で支えている。


「あ、あたしもなの!」


 駆けつけたマーサが興奮気味に叫ぶ。


「今朝、畑に出たら、いつもは痛くてたまらない腰が全然痛くない! それどころか、鍬を振ったら地面がバカッと割れて!」


「おかあさん、わたし火が出せるようになったよ!」


 幼い女の子が、小さな掌から赤い炎を生み出している。


「え、えっ……?」


 セフィナは呆然と村人たちを見回した。

 全員が、昨日とは別人のように活力に溢れている。老人の顔色は良くなり、子どもたちは魔力を発現させ、大人たちの身体能力が明らかに向上している。


「共通点は一つだね」


 マーサが、にやりと笑った。


「全員、昨夜あんたの料理を食べた」


「えっ……いや、そんなまさか。ただの料理ですよ?」


「ただの料理で岩は持ち上がらないよ、セフィナちゃん」


 マーサの指摘は至極もっともだった。


 セフィナは首を傾げながら、自分の手を見つめた。

 料理に何か特別なことをした覚えはない。普通にレシピ通り作っただけだ。

 ……いや、一つだけ。


 料理をしている時、セフィナはいつも無意識に祈っている。

 食べる人が笑顔になりますように。食べた人が元気になりますように。

 それは聖女としての癖というか、もはや呼吸のような習慣だった。


 まさか、その祈りが?


「セフィナさん!」


 声に振り返ると、村長のヨハンが息を切らせてやってきた。白髪を揺らし、枯れ木のような老人が走っている時点でもう異常だが。


「た、大変じゃ……! 西の畑を見てくれ!」


 村長に連れられて畑に行くと、セフィナは目を疑った。


 昨日まで痩せ細った芋と豆しか育っていなかった畑が、一面の緑に覆われていた。

 芋は倍の大きさに膨れ上がり、豆の蔓は支柱を超えて空に向かって伸び、それどころか見たこともない果実が実っている。


「これは……」


「昨日、マーサが料理の残り汁を畑に撒いたんじゃ。肥料がわりにと思ってな。そうしたら一晩でこの有り様じゃ」


 セフィナの脳裏に、かつて神殿長に言われた言葉が蘇った。


『セフィナ、お前の聖女としての適性値は【7】だ。歴代の聖女の中でも低い部類だな』


 適性値。

 神殿で測定される、聖なる力の基本数値。高ければ高いほど、強力な治癒魔法が使える。

 セフィナの【7】は確かに低かった。歴代の聖女の平均は【30】前後。新しい聖女セレスティナは【21】だと聞いた。


 でも、セフィナは知らなかった。

 自分の適性値が低く表示されていた理由を。


 神殿の測定器は「治癒」に特化した計測を行う。聖女の力=治癒の力、というのが常識だからだ。

 しかし、セフィナの力は治癒に留まらなかった。


 【神の祝福】。


 それは、セフィナの感情と祈りに応じて、あらゆるものに「強化」をかける力。

 治癒だけでなく、肉体強化、魔力付与、土地の浄化、作物の促進――その範囲は、既存の聖女の概念を遥かに超えている。

 ただし、その力は「誰かのために」「心を込めて」何かをした時にしか発動しない。

 数値では測れない。

 テストでは表れない。

 だから誰も――セフィナ自身さえも、気づいていなかった。


「セフィナさん、今朝も何か作ってくれないか?」


 ボルスが目を輝かせて言う。


「俺、今まで手も足も出なかった森の奥の大型魔物を狩れる気がするんだ。あいつを倒せれば、毛皮も肉も取り放題で、村が潤う」


「あたしのパンも焼いてほしいわ。今日は村中の洗濯を片付けられそうだもの」


「ね、ね、お姉ちゃんのクッキーまた食べたい!」


 次々と押し寄せるリクエストに、セフィナは苦笑した。


「わかりました。じゃあ、朝ごはんを作りましょうか。……でも、昨日のは本当にただの料理なんですけど」


 信じてもらえないのはわかっている。でも、セフィナにとっては本当に「ただの料理」なのだ。特別な魔法も、秘伝のレシピもない。

 心を込めて、丁寧に、食べる人のことを想って作る。

 それだけ。


 ――それだけのことが、途轍もない奇跡を生んでいるのだと、セフィナはまだ知らない。


 さて、朝食の支度をしようか。

 セフィナはエプロンを締め直し、竈に火を入れた。


 昨日マーサがくれた小麦粉が少し残っている。卵と、今朝搾ったばかりの山羊の乳。畑から引き抜いてきた、やたらと立派に育った芋。

 セフィナの頭の中で、レシピが組み立てられていく。


 ふわふわの芋パンケーキ。

 山羊乳のカスタードクリーム。

 野生蜂蜜のソース。


 竈の前に立つと、自然と鼻歌が出た。

 これが、セフィナの新しい朝だ。

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