第19話 王太子の転落
セフィナが王都を去った後、事態は急速に動いた。
きっかけは、国民の声だった。
王都の危機の間、誰が何をしたのか。市民たちは全て見ていた。
追放されたはずの元聖女が、恨み言一つ言わず王都に駆けつけ、無償で食事を作り続けたこと。
新聖女セレスティナが命がけで結界を張り直したこと。
副騎士団長ガレスが身を削って騎士団を指揮したこと。
そして――王太子クラウディウスが、何一つしなかったこと。
「王太子殿下は、危機の間ずっと王宮に隠れていたそうだ」
「セフィナ様を追い出したのも殿下の判断だろう。あの方がいれば、こんなことにはならなかった」
「新聖女様を一人で押しつぶそうとしたのも殿下だ。あの子が倒れた時、見舞いにすら行かなかったと聞く」
酒場で、市場で、工房で。市民たちの声は日に日に大きくなった。
そしてそれは、貴族たちの間にも波及した。
「クラウディウス殿下を王太子に据えておくのは、もはや国の恥ですぞ」
貴族院の会議で、有力貴族が声を上げた。危機の間はクラウディウスの取り巻きだった者たちが、今は手のひらを返して批判の急先鋒に立っている。
醜い光景だが、それが政治の現実だった。
「殿下の弟君、アルベルト殿下は聡明で人望も厚い。次期国王にふさわしいのは……」
国王もまた、息子の無能を見て見ぬ振りはできなくなっていた。
一ヶ月後。
クラウディウスは王太子の地位を剥奪され、北方の領地への蟄居を命じられた。
最後まで、クラウディウスはセフィナに謝罪しなかった。
だがそれは、もうどうでもいいことだった。セフィナにとっても、この国の人々にとっても。
王太子の座は弟のアルベルトに移り、新しい体制が動き始めた。
アルベルトの最初の布告は「辺境振興令」だった。エルデ村を含む辺境地域への支援を大幅に拡充し、王都と辺境の格差是正に取り組むという内容だ。
「セフィナ・フォルトゥーナ殿の功績に報いるため」という一文が、布告には添えられていた。




