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追放された聖女の辺境ごはん ~私の料理を食べた人がなぜか最強になるんですが~  作者: 月代
【第四章 聖女の選択】

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第17話 王太子の末路


「よくぞ戻った、セフィナ」


 クラウディウスは、聖堂の中央に歩み出た。


 周囲の空気が凍りついた。

 ガレスが剣の柄に手をかけ、ルカが殺気を放ち、クロエが身構える。


 だが、セフィナは穏やかだった。


「お久しぶりです、クラウディウス殿下」


「うむ。お前の力が必要だとは、私も認めよう。これからは再び聖女として――」


「お断りします」


 静かな、しかし揺るぎない声だった。


 クラウディウスの言葉が途切れた。


「……何だと?」


「聖女には戻りません。私は今回、困っている人たちにごはんを作りに来ただけです。結界はセレスティナさんが立派に張り直してくれました。もう私の出番はありません」


「ふざけるな。結界が戻ったのはお前の力があってこそだろう。お前なしでは――」


「殿下」


 セフィナが、初めてクラウディウスの言葉を遮った。


「セレスティナさんの力は本物です。足りなかったのは力ではなく、支えてくれる人と、立ち上がるための時間でした。それを奪ったのは、殿下です」


 クラウディウスの顔が赤くなった。


「私を責めるか。お前は聖女として――」


「聖女ではありません、と申し上げました」


 セフィナは微笑んだ。穏やかだが、その目は真っ直ぐにクラウディウスを見据えている。


「殿下が『用済みだ』と仰った通り、私はもう聖女ではありません。ただの料理人です。ただの料理人が、困っている人を放っておけなかっただけ。それ以上でも以下でもありません」


「だったらなぜ戻ってきた! 聖女でもないお前が、なぜ王都を救えた!」


「料理を作っただけですよ。温かいごはんを、みんなに」


 クラウディウスは言葉に詰まった。


 聖堂には、いつの間にか多くの人が集まっていた。騎士たち、神官たち、避難していた市民たち。全員が、このやり取りを見守っている。


「殿下。一つだけ聞いてもいいですか」


「……何だ」


「殿下は、この三日間で何をされましたか」


 沈黙。


 セフィナが料理を作り、セレスティナが結界を張り直し、ガレスが騎士団を指揮し、ルカが魔物を討伐している間。

 クラウディウスは、王宮の奥で震えていた。

 誰もがそれを知っていた。


「結界が崩壊した時、殿下は騎士団に指示を出しましたか。市民の避難を指揮しましたか。セレスティナさんが倒れた時、駆けつけましたか」


 クラウディウスの唇が震えた。


「私に助けを求めたのはガレスさんです。殿下ご自身の言葉ではなかった。……殿下は、この国のために何をされたのですか」


 聖堂に集まった人々の目が、一斉にクラウディウスに向いた。

 その目には、もう敬意はなかった。


「黙れ……黙れ! 私は王太子だぞ!」


「王太子であるならば、民を守るのがお務めでしょう」


 セフィナの声は、最後まで穏やかだった。怒りではなく、悲しみでもなく。ただ、事実を述べているだけだった。

 それが、誰の言葉よりも重く響いた。


 クラウディウスは、逃げるように聖堂を出ていった。


 その後ろ姿を、誰も追わなかった。

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