第14話 出発
翌朝。
セフィナが王都に向かうことは、あっという間に村中に伝わった。
「セフィナちゃんが行くって言うなら、止めないよ」
マーサは、大きな荷袋にいっぱいの食材を詰めながら言った。
「でも、ちゃんと帰ってきなよ。ここがあんたの家なんだから」
「もちろん。必ず帰ってきます」
「俺も行く」
ルカが、魔剣を腰に佩いて現れた。
「Bランクダンジョンのボスを一人で倒せる男が護衛につけば、まあ安心だろう」
「ルカさん……」
「借りを返すだけだ。あんたの飯がなければ、俺は今でもCランクのまま燻っていた」
クロエも歩み出た。
いつもの行商人の服ではなく、黒い軽装に着替えている。神殿密偵の正装だ。
「私も同行します。王都の内部事情は私が一番わかっています。……それに、嘘の報告書を出した落とし前もつけないといけませんし」
「クロエさん……大丈夫なんですか?」
「大丈夫じゃないかもしれませんけど」
クロエは肩をすくめて笑った。
「セフィナさんのごはんを食べてから、怖いものがなくなっちゃったんですよね」
村人たちが、広場に集まってきた。
「セフィナさん、これ持ってけ! うちの芋、最高にでかいやつ!」
「水筒に搾りたての山羊乳入れといたよ!」
「お姉ちゃん、がんばってね!」
子どもたちが足にしがみつき、老人たちが手を振り、ボルスが豪快に背中を叩いた。
「行ってこい、セフィナさん! あんたの飯で王都を救ってやれ!」
セフィナの目に涙が浮かんだが、ぐっとこらえて笑った。
「行ってきます。……帰ったら、みんなの大好物を全部作りますからね」
「おお! 約束だぞ!」
セフィナ、ルカ、クロエ。そしてガレスと騎士五人。
一行は馬車に乗り、エルデ村を後にした。
セフィナは馬車の荷台で、さっそく携帯用の保存食を仕込み始めた。干し肉の燻製。硬焼きパン。チーズと香草のクラッカー。
道中の食事はもちろん、王都に着いてからのことも考えなければならない。
「セフィナさん、馬車の中で料理するんですか」
ルカが呆れたように言った。
「だって、王都についてすぐ動けるように準備しないと。疲れた人たちにまず温かいものを食べてもらいたいし」
「……相変わらずだな」
「それと、セレスティナさんには特別なものを作りたいんです。魔力枯渇で倒れたなら、魔力回復に効果のある食材を組み合わせて……」
セフィナはレシピ帳をめくりながら、真剣な表情で考え込んだ。
【神の祝福】は、セフィナ自身にはまだ自覚がない。
だが、十五年間の聖女としての経験と、料理人としての直感が、最適な答えを導き出そうとしていた。
「ルカさん、途中の山で薬草を採取してもいいですか? 銀月草と、星露茸があれば最高なんですけど」
「銀月草は高地の岩場に自生する。星露茸は湿った洞窟だな。……まあ、寄り道くらいはできるだろう」
「ありがとうございます!」
ガレスが馬上から振り返り、馬車の中で楽しそうに食材を吟味するセフィナを見て、小さく笑った。
この人は、どこにいても変わらない。
誰かのために何かを作る。それが、この人の在り方だ。
王都まで、あと三日。




