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追放された聖女の辺境ごはん ~私の料理を食べた人がなぜか最強になるんですが~  作者: 月代
【第三章 王国の危機】

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第13話 エルデ村の騎士たち



二日後。


 エルデ村に、甲冑姿の騎士が六騎、駆け込んできた。


 村の入り口で、ボルスが腕を組んで立ちはだかった。

 その背後には、ルカが細剣の柄に手をかけて控えている。


「何の用だ、騎士さんよ」


 ボルスの声は穏やかだが、放つ威圧感は尋常ではなかった。セフィナの料理で鍛え上げられた肉体は、A級冒険者に匹敵する。正規の騎士といえども、容易には踏み込めない空気を纏っている。


「俺はガレス・ドレイク。王国騎士団副団長だ。セフィナ様にお会いしたい」


「ガレス? ああ、マーサのおばさんの甥っ子か。……セフィナさんに何の用だ」


「王都が、危機に瀕している。魔物に攻められ、結界も聖樹も失われた。セフィナ様のお力をお借りしたい」


 ボルスとルカが顔を見合わせた。


「……聞いたか、ルカ」


「ああ。追い出しておいて、都合が悪くなったら助けてくれ、か」


 ルカの声に、剣呑な響きが混じった。


「セフィナさんは、ここで幸せに暮らしている。今さら王都の尻拭いに駆り出すつもりなら、俺たちが相手になる」


 ルカの殺気に、後方の騎士たちが馬上で身を固くした。

 たった一人の冒険者が放つ気迫が、五人の騎士を圧倒している。


 ガレスは馬から降り、甲冑の膝をついた。


「命令ではない。俺個人の……頼みだ」


 騎士たちが息を呑んだ。副団長が、辺境の村人の前で跪いている。


「セフィナ様を無理に連れ戻すつもりはない。あの方の意思が最優先だ。だが、王都では今も民が苦しんでいる。子どもたちが怯え、老人たちが逃げ惑っている。……どうか、せめて話だけでも聞いてはもらえないか」


 沈黙が流れた。


「……ボルスさん、ルカさん、大丈夫ですよ」


 穏やかな声が、三人の間に割って入った。


 セフィナが、エプロン姿のまま歩いてきた。手には焼きたてのパンを載せた籠を持っている。


「ガレスさん、お久しぶりです。長旅でお疲れでしょう。まずは何か召し上がってください」


「セフィナ様……」


 ガレスが顔を上げると、セフィナは以前とはまるで別人のように生き生きとした顔で微笑んでいた。


「立ってください、ガレスさん。跪かないで。……お話は、ごはんを食べてからにしましょう」


 セフィナは騎士たち全員を広場に案内し、温かいスープとパンを出した。

 疲弊しきった騎士たちは、最初の一口で目を見張った。二口目で体の痛みが消え、三口目で枯渇しかけていた気力が回復した。


「何だこれは……疲労が消える……」


「さっきまで腕が上がらなかったのに……」


 騎士たちが驚愕する中、ガレスはスープの椀を両手で包み、静かに涙を流していた。


 セフィナのスープは、ただ体を癒すだけではなかった。

 張り詰めていた心の糸を、そっとほどいてくれる。大丈夫だ、と語りかけてくれる。

 ガレスはこの二日間、一睡もせず、何も食べず、ただ使命感だけで走り続けてきた。その緊張が、一杯のスープで溶けていく。


「美味い……セフィナ様、美味いです……」


「よかった。おかわりもありますからね」


 食事が終わった後、セフィナはガレスと二人で村外れの丘に座った。


「王都のこと、聞かせてください」


 ガレスは、すべてを話した。

 結界の崩壊。魔物の侵入。騎士団の苦戦。セレスティナの倒れたこと。クラウディウスの態度。


 セフィナは黙って聞いていた。

 その横顔に怒りはなかった。悲しみでもなかった。

 ただ、静かな痛みがあった。


「セレスティナさんが……」


「ああ。あの子は必死だった。自分の限界を超えて、結界を立て直そうとして……倒れた」


「……あの子は悪くない。何も悪くないんです」


 セフィナの声が震えた。


「悪いのは、十六歳の女の子に十五年分の仕事を押しつけた大人たちです。引き継ぎすらさせてもらえなかった」


「……その通りだ。俺も、もっと強く反対すべきだった」


「ガレスさんは、あの時路銀をくれたでしょう。この村を教えてくれたでしょう。……それだけで、十分です」


 夕日が、二人の横顔を橙色に染めた。


「セフィナ様。お願いです。王都を――」


「行きます」


 ガレスが言い終わる前に、セフィナは答えた。


「え……」


「行きますよ。だって、苦しんでいる人がいるんでしょう? それなら、行かない理由がない」


「しかし、あなたを追い出した国ですよ。クラウディウス殿下は、あなたに謝罪すらしないかもしれない」


「謝ってほしいわけじゃないんです」


 セフィナは立ち上がり、夕日に照らされた王都の方角を見つめた。


「私、聖女を辞めてから気づいたんです。私が料理をするのは、誰かに『美味しい』って言ってほしいからじゃなくて。食べた人が元気になって、笑ってくれるのが嬉しいからだって」


 振り返って、笑った。


「王都の人たちが困ってるなら、ごはんを作りに行きます。聖女としてじゃなくて、料理人として」


 ガレスは、その笑顔を見て確信した。

 この人は、自分が思っていた以上に強い。

 そして、自分が思っていた以上に、優しい。


「……ありがとうございます、セフィナ様」


「『様』はやめてくださいって、前にも言いましたよね」


「では……セフィナさん」


「はい。それでいいです」

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