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追放された聖女の辺境ごはん ~私の料理を食べた人がなぜか最強になるんですが~  作者: 月代
【第三章 王国の危機】

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第12話 王太子の命令



市街地の被害は拡大していた。


 騎士団は奮戦していたが、魔物の数が多すぎた。負傷者が増え、防衛線が後退していく。市民は王宮と神殿に避難しているが、それもいつまで持つかわからない。


 謁見の間で、クラウディウスは蒼白な顔をしていた。


 取り巻きの貴族たちは一人もいない。危機が訪れた途端、蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。残っているのは、王と王妃、そして数人の側近だけだ。


「殿下、もはや手の打ちようがありません」


 宰相が深刻な顔で報告する。


「近隣の領地に援軍を要請しましたが、到着まで最低三日。それまで王都が持つかどうか……」


「セレスティナは何をしている!」


「聖女様は魔力枯渇で意識不明です。回復の見込みは立っておりません」


 クラウディウスの拳が、玉座の肘掛けを叩いた。


「使えない……!」


 その言葉に、側近たちの表情が凍りついた。

 一ヶ月前、同じ口がセフィナに向けた言葉と、瓜二つだったからだ。


「殿下」


 ガレスが、血に汚れた鎧のまま謁見の間に入ってきた。


「前線の状況は深刻です。このままでは明日までに王宮も危険になります。……殿下、提案があります」


「何だ」


「前聖女セフィナ・フォルトゥーナ様に助けを求めるべきです」


 謁見の間が静まり返った。


「……何を言っている」


 クラウディウスの声が低くなった。


「用済みだと追放した女に、頭を下げろと言うのか。この私に」


「殿下の面子と、王都の民の命と、どちらが重いですか」


 ガレスは一歩も引かなかった。

 普段は忠実な副騎士団長が、初めて王太子に噛みついた。


「セフィナ様は辺境のエルデ村にいます。私が直接赴いて、お願いしてまいります」


「……赴いて、どうする。あの女が来るとでも思うのか。追い出した我々のために」


「それでも、頼むしかありません。セフィナ様なら――あの方なら、来てくれます」


 ガレスの確信に満ちた声に、クラウディウスは唇を噛んだ。


 長い沈黙の後。


「……好きにしろ」


 それが、クラウディウスの精一杯だった。「頼んでくれ」とも「連れ戻せ」とも言えない。自分が間違っていたと認めることが、どうしてもできない。


 ガレスは一礼して踵を返した。


 謁見の間を出る際、すれ違った老宰相が小声で言った。


「ガレス副団長。……頼みましたぞ」


「はい」


 ガレスは騎士五人を選び、早馬でエルデ村に向かった。

 王都からエルデ村まで、通常は馬車で五日。だが、今のガレスには時間がない。

 最短ルートを走り、馬を替え、眠らずに駆け続ければ、二日で着ける。


 夜の街道を疾走しながら、ガレスはセフィナの顔を思い浮かべた。


 あの日、王宮の正門でセフィナを見送った時の、彼女の笑顔。

 泣きそうなのに笑っていた、あの顔。

 自分はあの時、もっと強く引き止めるべきだったのだ。


「セフィナ様……どうか、力を貸してください」


 馬の蹄音が、夜の闇に響いた。

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