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追放された聖女の辺境ごはん ~私の料理を食べた人がなぜか最強になるんですが~  作者: 月代
【第三章 王国の危機】

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第11話 崩壊の日



その日は、何の前触れもなく訪れた。


 早朝、王都を包んでいた神聖結界が、ガラスのように砕け散った。


 空に走った亀裂を、最初に目にしたのは城壁の歩哨だった。淡い光の膜に無数のひびが入り、それが蜘蛛の巣のように広がっていく。歩哨が警鐘を鳴らそうと手を伸ばした時には、もう遅かった。


 轟音とともに結界が消滅し、その瞬間を待っていたかのように、王都の北門に魔物の群れが殺到した。


 ブレイドベア、ストーンゴーレム、ダイアウルフ。

 本来なら辺境の森に棲む中型・大型魔物が、数十体の群れをなしている。結界の消失を本能で感じ取り、一斉に押し寄せてきたのだ。


「全騎士団、迎撃態勢! 市民の避難を最優先!」


 副騎士団長ガレスが号令を発した。

 騎士団長は先月の視察中に魔物に負傷し、いまだ療養中。実質的な指揮はガレスが執っている。


 騎士たちは勇敢に戦った。だが、多勢に無勢だ。結界があった頃は侵入を許さなかった魔物たちを、人の手だけで防ぐのは至難の業だった。


 北門が突破された。

 続いて東門にも魔物が群がる。

 市街地で悲鳴が上がり、建物が破壊される音が響く。


「セレスティナ様! 結界の再構築を!」


 神殿で、ヴァレリウスが叫んだ。


 セレスティナは聖堂の中央に立ち、両手を天に掲げていた。全身から聖なる光が溢れ、適性値【21】の力が解放される。


「結界よ……蘇りなさい……!」


 光が天に向かって伸び、結界の痕跡を辿ろうとする。

 だが、セフィナが十五年かけて織り上げた結界の「型」は、セレスティナの魔力では再現できなかった。力を注いでも注いでも、砂に水を撒くように消えていく。


「嘘……どうして……私の力は、セフィナ様の三倍のはずなのに……!」


 セレスティナの目から涙が溢れた。


 適性値は、瞬間的な出力を測る数値に過ぎない。

 セフィナの結界は、十五年分の祈りが積層した芸術品だった。毎日少しずつ、心を込めて塗り重ねた幾千もの薄い層が、分かちがたく融合して一つの堅牢な盾になっていた。

 それを、たった一ヶ月で再現できるはずがない。三倍の力があろうと、千倍の力があろうと。


「もっと……もっと力を……!」


 セレスティナは自分の限界を超えて魔力を放出した。

 体が悲鳴を上げている。視界がぼやける。手足の感覚がなくなる。


「セレスティナ様、おやめください! このままでは!」


 ヴァレリウスの制止も聞こえない。


 最後の力を振り絞った瞬間、セレスティナの意識は暗転した。

 崩れ落ちる少女の体を、神官たちが慌てて抱き止める。


「セレスティナ様!」

「脈はあります、しかし魔力が完全に枯渇して……!」


 ヴァレリウスは蒼白な顔で、倒れたセレスティナを見下ろした。

 十六歳の少女に、十五年分の負債を押しつけた結果がこれだ。


「……私は、何をしてきたのだ」


 その呟きに答える者はいなかった。

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