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呼び覚まされる名

雨上がりの朝、村は霧に包まれていた。

スタンリーはリナを小屋の中に閉じ込め、外へ出ていた。

「絶対に出るな」

その言葉は、もう脅しではなく、命令だった。

遠くから、馬の蹄の音が聞こえてきた。

複数。

規則正しい、軍のもの。

スタンリーの体が、即座に緊張した。

「リナ! 床下に隠れろ! 声も出すな!」

リナを隠し、短剣を握って外へ出た。

森の木々の間から、王国軍の小隊が現れる。

十名。

松明を掲げ、剣を抜いている。

リーダーの男が大声を上げた。

「人さらいのスタンリーはここにいるはずだ!

 拉致した娘も一緒に探せ!」

その名前を聞いた瞬間、スタンリーの頭が爆発した。

フラッシュバックが、雪崩のように襲いかかる。

血の雨。

泣き叫ぶ娘たち。

国王の赤い目と、牙のような歯。

「さらえ」という冷たい命令。

自分の手が、少女の腕を掴む感触。

リナを連れ出した雨の夜。

「うあああっ!」

スタンリーは頭を抱えながらも、体が勝手に動いた。

過去の自分が、完全に目覚めていた。

最初の兵士の剣をかわし、短剣を喉に突き刺す。

血が噴き出す。

二番目、三番目。

兵士たちが叫ぶ。

「怪物だ! 人さらいのスタンリーだ!」

スタンリーは歯を剥き出し、笑った。

苦く、震える笑み。

「……ああ、そうだ。

 俺は人さらいのスタンリーだ……」

記憶の断片が、急速に繋がっていく。

異母妹のリナを守るために、国王の化け物から逃げたこと。

すべてが、雪崩のように埋め戻される。

最後の兵士を倒し、スタンリーは小屋へ駆け戻った。

床下からリナを引きずり出し、強く抱きしめた。

「リナ……俺は……思い出しかけている。

 お前をさらった男だ。

 怪物だ。

 それでも……お前だけは、守りたい。

 たった一人、お前だけが……俺の生きる意味だ。」

リナの目から、涙が溢れた。

彼女は兄さまの胸に顔を埋め、震える声で言った。

「それでも……私は、あなたを選ぶわ。

 異母兄妹でも……おじさまは、私の家族だよ。」

外で、追加の馬の音が近づいてくる。

大部隊が来る気配。

スタンリーはリナの手を強く握った。

「逃げるぞ。

 お前だけは、絶対に失わない。」

二人は、霧の森の奥へ走り出した。

背後で、兵士たちの声が響く。

「人さらいのスタンリー! 逃がすな!」

呼び覚まされた名が、霧の中に溶けていく。

スタンリーの胸に、たった一つの想いだけが、燃えていた。

たった一人の妹の為に。

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