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疼く記憶

朝の光が小屋の窓から差し込み、暖炉の残り火がまだ赤く光っていた。

記憶のない男——スタンリーは、リナが起きる前に薪を割り、朝食の準備をしていた。

32歳の体は重労働に慣れているようだった。

手つきは正確で、無駄がない。

まるで、何度も人を切り裂いたような、冷たい動き。

リナ(12歳)が目をこすりながら起きてきた。

小さな体で男の袖を掴む。

「おじさん……もう起きてたの?

 私も手伝うよ。」

スタンリーは無言でリナの頭を軽く撫でた。

父親のように、または兄のように、自然な動作。

リナは嬉しそうに笑ったが、心の中では複雑な想いが渦巻いていた。

(兄さま……異母兄妹だって知らないの?

 おじさまは私を守ってくれたのに……今はただの「おじさん」として、私を見てくれている……)

カイル(15歳)とグリム(ゴブリンの少年)が、小屋の戸を勢いよく開けた。

カイル「よっ、スタンリー! 今日も元気そうだな!

 グリムがまた野いちごを山ほど採ってきたぞ!」

グリムが尻尾を振りながら袋を掲げた。

「俺、朝から頑張ったんだぜ!

 お前、甘いの好きだろ? ほら、食え食え!」

スタンリーは無表情のまま、野いちごを受け取った。

しかし、リナが少しでも外へ出ようとすると、すぐに手を伸ばして引き止めた。

「……行くな。」

声が低く、強い。

リナが驚いて振り向く。

「でも、井戸に水を汲みに……」

「俺が行く。

 お前はここにいろ。」

スタンリーの目には、理由のない恐怖が浮かんでいた。

リナが視界から消える想像だけで、胸が締め付けられる。

カイルが苦笑した。

「お前、過保護すぎるぞ。

 リナは村で育ったんだから大丈夫だよ。」

グリムが男の足にしがみついて笑う。

「俺もついてく! ゴブリンだから目がいいんだぜ!」

スタンリーはリナを小屋の中に残し、カイルとグリムを連れて外へ出た。

井戸で水を汲みながら、カイルがぽつりと言った。

「最近、村の外から変な噂が流れてる。

 王都で人さらいのスタンリーが処刑されたって……

 お前、名前が同じだな。

 もし何か知ってるなら、教えてくれよ。」

その言葉を聞いた瞬間、スタンリーの頭に鋭い痛みが走った。

フラッシュ。

血の匂い。

泣き叫ぶ娘たち。

国王の赤い目と、牙のような歯。

「さらえ」という冷たい命令。

「っ……!」

スタンリーは水桶を落とし、頭を抱えた。

グリムが慌てて支える。

「おい、大丈夫か!?」

痛みが引いた後、スタンリーは静かに水桶を拾った。

「……大丈夫だ。

 ただ、この子を守りたいだけだ。」

リナは小屋の窓から、三人の姿をじっと見つめていた。

兄さまの背中が、遠く感じる。

異母兄妹の秘密を、彼女だけが抱えていた。

村の朝は、静かに過ぎていく。

しかし、スタンリーの胸の疼きは、確実に大きくなっていた。

これは、過去だった。

そして、終わりは、すでに始まっていた。

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