2.2 資産参照型通貨と管理通貨
貨幣体系は、その価値が何を参照して定義されているかによって、大きく異なる性質を持つ。本節では、資産参照型通貨と管理通貨という二つの枠組みを整理し、それぞれが価値尺度としてどのように機能してきたかを確認する。ここでの整理は、制度の優劣を論じることを目的とするものではなく、参照構造の違いが記述可能性に与える影響を明らかにするためのものである。
資産参照型通貨とは、貨幣価値が何らかの外部資産に結び付けられている体系を指す。歴史的には、貴金属や土地、生産資源といった物理的資産がその典型であり、近代以降は国家や経済圏全体の資産規模・信用力が間接的な参照対象となってきた。この種の通貨において、貨幣は価値そのものではなく、参照資産への請求権や換算関係を表象する記号として機能する。
一方、管理通貨は、特定の資産との直接的な対応関係を持たず、制度的管理によって価値が維持される通貨体系である。ここでいう管理とは、発行量、流通量、交換条件などが、制度的手続きによって調整されることを意味する。管理通貨において価値の安定性を担保するのは、外部資産そのものではなく、管理主体および制度への信頼である。
両者の差異は、価値尺度の透明性と柔軟性のトレードオフとして理解することができる。資産参照型通貨は、参照対象が明示されている場合、価値の根拠が直感的に理解しやすい。一方で、参照資産が制度や市場を介して遠隔化・抽象化されるにつれ、生活経験との対応関係は希薄化する。管理通貨は、この希薄化を前提としつつ、制度運用によって価値の連続性を確保する枠組みである。
地球外ハビタットにおいては、この二つの体系が重層的に存在している。形式上は地球起源の資産参照型通貨が流通している一方で、その実際の運用は、発行量調整や補助、価格安定措置といった管理的操作に大きく依存している。この状況は、通貨が資産参照型であると同時に、管理通貨としても機能していることを示している。
重要なのは、いずれの体系においても、貨幣は価値を「生み出す」ものではなく、価値を「記述し、配分する」ための装置であるという点である。参照資産であれ、管理制度であれ、それらは貨幣の外部に存在する条件であり、貨幣はそれらを前提として成立する。
本研究において、この整理が持つ意味は、貨幣の価値尺度という機能が、必ずしも単一の参照構造に固定されていないことを示す点にある。資産参照型通貨と管理通貨のいずれにおいても、価値尺度は制度的に選択され、運用されてきた。したがって、経済活動を分析する際に、貨幣の背後にある参照軸を明示的に取り出し、別の物理量によって再記述する余地が生じることは、制度的にも論理的にも排除されない。
次節では、こうした参照構造の整理を踏まえ、経済活動と生存条件がどのように分離され、また接続されてきたかを検討する。
【参考文献】
ジョナサン・M・リード 『宇宙で国は守ってくれない』(グレイホライゾンプレス, 2187)
エヴァン・R・ハロウェイ 製作『There’s No Air』(アトラスピクチャーズ、2183)




