2.1 貨幣の機能と価値尺度
貨幣は、経済活動を円滑に記述・運用するための装置として、複数の機能を同時に担ってきた。一般に、貨幣の基本的機能は、交換の媒介、価値尺度、価値保存の三点に整理される。これらの機能は歴史的に常に同一の形で実現されてきたわけではなく、社会的・技術的条件に応じて強調点を変化させながら維持されてきた。
交換の媒介としての貨幣は、異なる財やサービスを直接比較する必要を回避する役割を果たす。価値尺度としての貨幣は、経済行為を数量化し、記録し、比較可能にするための共通の参照軸を提供する。そして価値保存としての機能は、時間を超えて経済行為の結果を保持することを可能にする。これら三機能は概念的には区別されるが、実際の制度運用においては密接に結びついている。
しかし、貨幣が価値尺度として機能するためには、その背後に何らかの参照対象が存在する必要がある。歴史的には、貴金属、土地、生産力、国家信用などが、その役割を担ってきた。これらはすべて、貨幣そのものではなく、貨幣が表象する価値の根拠として機能する外部要素である。貨幣は、価値そのものではなく、価値を記述するための記号体系であるという点において、一貫して間接的な存在であった。
価値尺度としての貨幣が成立する条件は、参照対象が社会的に共有され、かつ比較可能であることである。参照対象が抽象的であればあるほど、制度的安定性は高まる一方で、日常的な経験との対応関係は希薄化する。逆に、参照対象が具体的であれば、価値の直感的理解は容易になるが、制度的拡張性は制限される。この緊張関係は、貨幣制度が常に内包してきた構造的特徴である。
地球外ハビタットのような閉鎖環境においては、この構造がより明瞭に観測される。貨幣は依然として交換の媒介として機能するが、その価値尺度としての意味内容は、生活環境との距離によって再解釈を迫られる。すなわち、貨幣が表す数値と、個体の生存条件との対応関係が自明でなくなる状況が生じる。
本研究は、この状況を貨幣機能の失効として捉えない。むしろ、貨幣が担ってきた価値尺度という機能が、必ずしも単一の参照軸に依存する必要がないことを示唆するものとして位置づける。貨幣は交換の媒介として引き続き有効であり得る一方で、価値尺度の役割は、異なる参照軸によって補完的に再構成され得る。
以上の整理を踏まえると、経済活動の分析において重要なのは、貨幣を否定することではなく、貨幣が担ってきた各機能を分解し、それぞれがどの参照軸に基づいて成立しているのかを明示することである。次節では、価値尺度としての貨幣がどのように管理通貨として機能してきたかを整理し、その構造的特性を確認する。
【参考文献】
エドワード・L・マルコフ『価値の距離――抽象化された指標と人間的帰結』(ノード経済研究所、2182)
アーロン・S・ケルナー『満たされた後に何が残るか――生存保証社会における欲求の拡張』(ミラージュ心理学叢書、2184)
佐久間 恒一『生きていけるなら、もっと欲しい――保障社会における不正受給者の記録』(綴社、2190)




