1.3 本研究の目的|既存の経済活動をカロリー基準で再記述する枠組みの提示
本研究の目的は、新たな経済制度や価値体系を提案することではない。むしろ、現在運用されている経済活動が、すでに内在的に持っている構造を、別の参照軸によって記述し直すための枠組みを提示することにある。本稿が対象とするのは、地球外ハビタットにおいて日常的に行われている生産、交換、消費といった行為であり、それらを従来の地球資産参照型貨幣体系から切り離して評価することを目的とはしない。
具体的には、本研究は、既存の経済活動を「カロリー」を基準とした物理量の観点から再記述することが可能であることを示す。ここでいう再記述とは、行為の意味や社会的評価を変更することではなく、同一の行為を別の尺度に写像する操作を指す。したがって、本研究は、貨幣を否定する立場を取らず、また貨幣に代替する価値尺度を制度的に導入することを主張しない。
カロリーを基準とする理由は、栄養学的・生理学的な正当性に求められるものではない。地球外ハビタットにおいて、カロリーはエネルギー消費、生存維持、物質循環といった複数の要素と直接的に接続可能な量であり、かつ運用上、記録・移転・蓄積・消費といった操作に分解して扱うことができる。その結果、経済活動の結果が、生存条件に与える影響を、過度な抽象化を介さずに記述することが可能となる。
本研究が提示する枠組みは、既存の経済指標や価格体系と競合するものではない。むしろ、それらと並行して用いられる補助的記述体系として位置づけられる。すなわち、同一の取引や生産行為が、貨幣価値とカロリー量という異なる参照軸の下で同時に表現され得ることを示し、その対応関係を整理することが目的である。
以上の目的に基づき、本稿では、まずカロリー基準による記述が成立するための前提条件を整理し、次いでそれを可能にする記録装置および操作体系を導入する。これらを通じて、本研究は、地球外ハビタットにおける経済活動が、すでにカロリー基準による再記述を受け入れ得る段階にあることを、記述的かつ中立的に示すことを目指す。
【参考文献】
サミュエル・K・ブロナー『1キロカロリーの値段――生存単位としてのエネルギー評価』(パララックス出版、2188)
エレナ・フォーク『地球では無料、宇宙では贅沢――極限環境における価値逆転の経済学』(オービタル・ブックス、2191)
トーマス・R・ハドソン『息をするのもタダじゃない――空気循環と代謝コストの科学』(ブルーオービット新書、2189)




