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9.1 非計測的生存様式の特徴

本節では、制度的経済が解体し、計測・記録・評価の連鎖が維持できなくなった後に現れる生存様式を、非計測的生存様式として整理する。ここでいう退行とは、技術的後退や文明の否定を意味しない。むしろ、計測を前提とした生存の記述を放棄することによって成立する、別種の合理性を指す。


非計測的生存様式の第一の特徴は、行為と結果の対応関係が、即時的かつ身体的に把握される点にある。食料の獲得、居場所の確保、体調の維持といった行為は、数値や記録を介さず、成功か失敗かという二値的な経験として認識される。この様式においては、ML に代表される記録装置は機能せず、また必要とされない。生存は測られるものではなく、行われるものとして再定義される。


第二に、非計測的生存様式では、将来の予測が制度的に行われない。予測が不可能なのではなく、予測を行うための共通基盤が存在しないためである。結果として、行為は短期的な視界に基づいて選択されるが、これは前章で扱った短期最適化とは性質を異にする。ここでの短期性は、評価周期の短縮ではなく、評価そのものの不在に由来する。


第三の特徴は、交換の非制度化である。物や労力のやり取りは存在し得るが、それらは価格や等価性に基づいて整理されない。交換は関係性や状況依存的に行われ、その履歴は蓄積されない。このため、債権や負債といった概念は意味を持たず、未清算の状態が恒常的に維持される。


また、非計測的生存様式では、役割分化が限定的である。高度な専門化は、計測と予測に依存するため、これらが失われた環境では持続しにくい。個体は複数の役割を断続的に担い、行為の価値は成果ではなく、その場での有効性によって判断される。


重要なのは、この様式が必ずしも悲惨なものとして経験されるわけではない点である。計測と評価から解放されることで、比較や選別の圧力は消失する。生存は個体ごとに完結し、制度的排除という概念自体が成立しなくなる。その一方で、余剰の蓄積や長期的計画は困難となり、不安定さが常態として受け入れられる。


以上より、非計測的生存様式は、制度的経済の失敗や崩壊の結果としてのみ現れるのではない。それは、計測と予測を前提とした生存の記述が不可能になった環境において、なお生き続けるための合理的な適応形態として位置づけられる。次節では、この様式における交換のあり方と、それが社会関係に与える影響を検討する。

【参考文献】

エリオット・J・マクレーン『ルポ・ナルハナル――貨幣を持たない民族』(グレイホライゾンプレス、2031)

レベッカ・L・チョウ『数えない社会――価値を記述しない共同体』(ノード人類学叢書、2026)

トーマス・E・グレイ『ログアウト後の生活』(ミラージュ・エッセイズ、2028)

サイモン・F・リー『IDを捨てた人々――参照不能な生』(ミラージュ・エッセイズ、2030)

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