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8.4 善意による選別と排除

本節では、前節までに示した破綻過程が、暴力や悪意を伴わずに進行する局面として、善意による選別と排除を検討する。ここでいう善意とは、制度や他者を守ろうとする意図、あるいは合理性と公平性を維持しようとする判断を指す。問題は、その善意が結果として選別と排除を不可避に生み出す構造にある。


予測精度への依存と短期最適化が常態化し、制度が単一の評価軸へと収束すると、行為や個体の差異は「説明可能か否か」によって整理される。説明可能な差異は調整対象として残り、説明不可能な差異はノイズとして扱われる。この整理は、効率と透明性を高める目的で行われるが、同時に、制度が理解できないものを保持する理由を失う。


善意による選別は、多くの場合、保護の言語を伴って現れる。支援の優先順位、資源配分の合理化、全体最適の維持といった名目の下で、評価に合致しない行為や個体は「後回し」にされる。重要なのは、ここでの後回しが暫定的措置として開始される点である。しかし、短期評価の反復により、この暫定性は固定化し、排除は手続きとして正当化される。


この過程では、排除は罰として理解されない。むしろ、制度の持続性を確保するための必要条件として説明される。生存効率係数に基づく判断は、情緒的判断を排し、誰にとっても同じ基準を適用するという意味で、公平に見える。その結果、排除は差別ではなく、中立的判断の帰結として受け取られる。


善意による排除が特に危険であるのは、抵抗や修正が起こりにくい点にある。判断が善意と合理性に裏打ちされているため、異議は感情的、非合理的、あるいは全体を危険にさらすものとして退けられる。制度内部では、排除の累積が問題として認識されにくく、気づいた時点では調整不能に近づいている。


また、この段階では、非直接的寄与行為の価値はほぼ完全に失われる。調停、配慮、例外処理といった行為は、評価軸に反映されないため、制度の外縁へと追いやられる。善意は残るが、それを実装する余地が消失することで、制度は自らの善意を実現できない構造へと変質する。


以上より、善意による選別と排除は、破綻パターンの最終段階として理解できる。それは悪意の勝利ではなく、善意が唯一の選択肢になった結果としての硬直である。次章では、これらの破綻過程を経た後に生じる、回収不能・代替不能な状態の挙動について検討する。

【参考文献】

網野 義彦『村八分の構造――共同体が人を外すとき』(水鏡現代選書、1995)

マイケル・A・ロウ『正しい側にいたはずだった――排除を支持した人々の記録』(グレイホライゾンプレス、2039)

ジョージ・オーウェル『1984』(セッカー・アンド・ウォーバーグ、1949)

匿名『あなたはまだ安全ですか?』(私家版、2024)

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