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8.2 短期最適化への収束

本節では、前節で述べた予測精度への過度な依存が進行した結果として生じる、短期最適化への収束を破綻パターンとして整理する。ここでいう短期最適化とは、意図的な近視眼性や刹那的判断を指すものではない。むしろ、制度と個体がともに合理性を追求した結果として、評価の時間軸が不可逆的に短縮されていく過程を意味する。


予測モデルが高い精度を示し続ける環境では、将来に関する不確実性は数値として処理され、意思決定の対象から徐々に排除される。このとき、判断の基準は「長期的にどうなるか」ではなく、「次の更新までに何が最適か」へと移行する。評価周期が短縮されることで、行為の正当性は直近の成果によってのみ測られるようになる。


短期最適化が進行すると、非直接的寄与行為は急速に縮減される。点検、記録、学習、調停といった行為は、即時的な成果を生まないため、短期評価において不利である。しかし、これらの行為は、前章で示した成立パターンにおいて、誤差の蓄積を抑制する役割を果たしていた。短期最適化への収束は、制度が自らの緩衝材を削り取る過程として理解できる。


重要なのは、この収束が強制や怠慢によって起こるのではない点である。評価周期の短縮は、効率性と透明性を高めるための改善として導入されることが多い。結果として、行為の比較可能性は向上し、選択は容易になる。しかしその一方で、長期的な影響や遅延効果は、評価の枠外に追いやられる。


短期最適化への収束が破綻的である理由は、最適化そのものにあるのではない。問題は、最適化の対象が短期成果に限定されることで、制度が未来に対して無防備になる点にある。短期的には安定して見える運用が、環境変動や予測前提の崩壊に直面した際、急激に調整不能へと転じる。


この状態では、個体の行動も均質化する。評価指標が共有され、短期成果が唯一の基準となることで、行動の多様性は失われる。多様性の喪失は、予測モデルの外側にある事象への感度を低下させ、制度全体の脆弱性を高める。結果として、制度は自らの成功条件に縛られ、修正の契機を失う。


以上より、短期最適化への収束は、予測精度への依存と相互に強化されながら進行する破綻パターンである。この過程は、外部から見れば効率的かつ合理的に映るため、破綻として認識されるのは遅れる傾向にある。次節では、この収束が制度構造そのものを変質させ、特定の社会形態へと同型化していく過程を検討する。

【参考文献】

リチャード・E・コールマン『次の四半期まで生き残れ――短期評価が企業を壊すとき』(ストラテジック・アナリシス出版、2021)

江戸生活文化研究会 編『宵越しの銭は持たない――江戸庶民の時間感覚と経済』(東方生活史叢書、2169)

オスカー・L・ベネット『警報が鳴るころには――ハビタット運用トラブル小話集』(コスモノーツ・ライブラリ、2035)

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