6.3 生存単位の縮小
前節で述べた制度的経済の解体過程を経ると、経済活動を記述するための主体単位は、不可逆的に縮小していく。本節では、この生存単位の縮小がどのように進行し、どの水準で安定するかを整理する。
制度的経済が機能している間、個体は生産・交換・貯蔵・吸収といった操作を通じて、経済主体として記述される。しかし、観測不能および調整不能の状態が持続すると、これらの操作は成立せず、個体はもはや経済的判断の対象として扱われなくなる。このとき起こるのは、個体の消失ではなく、記述単位の変更である。
生存単位の縮小は、まず個体単位から関係単位への移行として現れる。扶養関係や共同生活単位が維持されている限り、制度は個体ではなく、最小限の生活集団を参照する。ここでの単位は、法的・制度的に定義されたものではなく、実質的にカロリーを共有し得る範囲として成立する。
次に、関係単位が維持できなくなると、生存単位は機能単位へと縮小する。すなわち、「誰が生きているか」ではなく、「どの機能が維持されているか」が参照されるようになる。居住区の一角、循環設備の一部、あるいは特定の作業工程が、生存を支える最小単位として扱われる。この段階では、人間は制度的記述から後景化し、環境の構成要素の一部として位置づけられる。
最終的に、生存単位はカロリーそのものに還元される。生産能力を失い、貯蔵も尽き、関係も断たれた個体は、制度的にはこれ以上分解できない存在として扱われる。この還元は、倫理的判断や選別の結果ではなく、記述上の必然である。制度は、個体を「処理する」のではなく、生存を構成していたエネルギーの配置を更新するに過ぎない。
この段階において、個体は経済主体でも、生活単位でもなくなるが、生存の連鎖から完全に切り離されるわけではない。生存単位の縮小とは、生命の否定ではなく、制度が参照できる最小単位への遷移である。そこでは、生存は引き続き起こっているが、もはや経済的言語によって記述されない。
以上のように、生存単位の縮小は、回収不能・代替不能時の挙動の最終段階として位置づけられる。この段階に到達したとき、制度的経済は役割を終え、その外部にある生存様式が前景化する。次章では、こうした境界から距離を保ちながら制度が成立する条件、すなわち成立パターンの例示を行う。
【参考文献】
ハロルド・T・グリーン『完全循環社会――廃棄物ゼロ設計の思想』(ノード環境工学叢書、2164)
環境資源庁 編『再資源化基準マニュアル 第5版』(官庁標準資料、2171)
マーティン・J・コール『捨てない社会――すべては何かに使える』(アンダーサイド・ブックス、2160)
匿名『あなたも資源になれる』(私家版、2157)




