4.1 価格概念から生存効率係数への写像
本節では、従来の価格概念が、カロリー基準の枠組みにおいてどのように再記述され得るかを検討する。ここで扱うのは、価格を否定したり置き換えたりする試みではない。むしろ、価格が担ってきた機能の一部を抽出し、それを生存効率係数という別の指標へ写像する操作である。
価格は、一般に希少性、需要、供給、リスク、期待といった複数の要素を圧縮した指標として機能してきた。その結果、価格は比較と選択を可能にする一方で、その内訳を不可視化する。地球外ハビタットのような極限環境において、この圧縮は必ずしも有効に働かない。なぜなら、価格が示す差異が、生存条件の差異と必ずしも対応しないからである。
カロリー基準において、本研究が導入する生存効率係数は、ある行為や資源が、投入されたカロリーに対して、どの程度生存条件を改善するかを相対的に示す指標である。この係数は、価値判断を代替するものではなく、行為の結果を生存という観点から再配置するための補助的な尺度として位置づけられる。
重要なのは、この写像が一方向的である点である。すなわち、価格から生存効率係数への変換は可能であっても、その逆は必ずしも成立しない。価格は社会的合意や制度的枠組みに依存するが、生存効率係数は、個体の状態や環境条件に強く依存する。したがって、同一の価格を持つ行為であっても、生存効率係数は個体や状況によって異なる値を取り得る。
このとき、生存効率係数は単一の数値として厳密に定義される必要はない。本研究において重要なのは、価格が提供していた「比較可能性」を、生存条件に即した形で再構成できるという点である。すなわち、高価であることと、生存に有利であることが乖離する場面において、後者のみを抽出して評価するための参照軸が導入される。
価格が市場全体の調整を目的とするのに対し、生存効率係数は個体の意思決定を補助する。どの資源を貯蔵するか、どの交換を選択するか、どの行為にカロリーを割くかといった判断において、この係数は「どれだけ生きやすくなるか」という問いを直接的に提示する。その結果、価格が示していた間接的な価値は、より限定されたが即時的な意味を持つ指標へと変換される。
以上のように、価格概念から生存効率係数への写像は、経済活動を生存条件の観点から読み替えるための操作である。この操作は、価格体系を否定するものではなく、価格が十分に機能しない領域において、別の比較軸を導入する試みとして理解されるべきである。次節では、この係数が個体間および集団内でどのように用いられ、どのような行動変化をもたらすかを検討する。
【参考文献】
ヘレン・マイヤーズ『どの支援が人を長く生かすのか――福祉政策における効果測定の実際』(パブリック・メジャーズ社、2181)
カルロス・N・ロペス『効率指標設計入門――最適化されない数値の扱い方』(オービタル・エンジニアリング叢書、2186)
サラ・ウィンスロー『延命の値段――医療現場における効果と選択』(ヘルス・ポリシー出版、2178)
コスモノーツ編集部『それは本当に“高い”のか?――生存効率で比べる装備レビュー』(コスモノーツ、2191年5月号)




