3.4 減衰と不可逆操作の位置づけ
【参考文献】
ルーカス・チェン『知ってた?Metabolic Ledger の使える設定集』(ライフハック・オービット社、2194)
ネクサス・ソフトウェア研究会 編『ML を100倍便利にする周辺アプリケーション大全』(ネクサス・テックブックス、2195)
無署名『ML 障害事例集(2190–2194)』(内部流通資料)
本節では、前節までに示した等価的記述の枠組みに対し、減衰および不可逆操作がどのように位置づけられるかを整理する。ここでいう減衰とは、貯蔵・交換・吸収のいずれの経路においても、時間や過程の進行に伴って生じる回収不能なカロリーの消失を指す。また、不可逆操作とは、記録上・制度上いかなる操作によっても元の状態へ戻すことができない変化を意味する。
ML による記録操作は、CR、DR、AS を同一の尺度で扱う点において等価性を成立させるが、この等価性は完全保存則を仮定するものではない。実際には、いずれの操作にも減衰が伴い、総量としてのカロリーは時間とともに縮減する。この縮減は、記録の誤差や制度的不備によるものではなく、運用の正常状態において前提とされる現象である。
減衰は、ML 上では特定の操作として明示的に記録されない場合が多い。貯蔵中の損失、交換過程における変換損、吸収に伴う代謝損失などは、それぞれ異なる物理的・生理的過程に由来するが、記録上は残高の低下としてのみ現れる。この点において、減衰は等価性の例外ではなく、等価的記述が成立する背景条件として機能している。
不可逆操作の代表例は AS(Assimilation)である。AS は、カロリーが個体内部に取り込まれ、生理的過程を経て消費される操作であり、その結果は外部への再移転や再計測を前提としない。記録上は DR と同様に減算として表現されるが、将来的な操作可能性という観点では決定的に異なる。この差異は、等価性を否定するものではなく、等価性があくまで記述上の性質であることを明確にする。
重要なのは、不可逆性が ML の設計上の欠陥ではない点である。むしろ、不可逆操作を含むことによって、ML は現実の生存過程と乖離しない記述を維持している。すべての操作が可逆であるならば、カロリー基準は抽象的な計算体系に退行し、生存条件との接続を失う。不可逆性は、記述体系を現実へ係留するための要素として機能している。
このように見ると、減衰と不可逆操作は、等価性の外部に置かれる例外ではなく、等価的再記述が現実と整合するために不可欠な制約条件である。貯蔵・交換・吸収が同一の尺度で記述されるからこそ、どこで不可逆な消失が生じているかが可視化される。
本研究は、減衰を最小化する制度設計や、不可逆操作を回避する行為選択を提案するものではない。ここでの目的は、これらが既に経済活動の内部に組み込まれている事実を、カロリー基準によって再記述することである。減衰と不可逆性を含んだままでも、経済活動は一貫した形式で記録され得る。この点に、カロリー基準による再記述の操作的有効性がある。
次章では、この枠組みを個体間および集団レベルへ拡張し、減衰と不可逆操作が集団動態にどのような影響を及ぼすかを検討する。




