幻のループタイ教頭を追う
※本作はフィクションです。実在の法律・人物・団体とは一切関係ありません。
かつて、全国各地の小学校で当たり前のように見かけられたループタイ教頭。
2000年代以降、環境の変化により大きく数を減らし、都内では2013年を最後に目撃例がなく、一時は絶滅したと思われていました。
しかし、近年、一般の人から都内でループタイ教頭を見かけたという情報が相次いでいます。
いずれも未確認ではありますが、専門家の中ではループタイ教頭が帰ってきたのでは?という期待の声が上がっています。
果たして、本当にループタイ教頭は帰ってきたのでしょうか?
取材班は専門家とともに目撃情報のあった都内の現場を訪れました。
訪れたのは江戸川区のとある小学校。午後三時、ループタイ教頭が校舎から姿を現しやすいと言われる時間帯です。
と、ループタイをつけた教頭らしき姿が現れました。
随分と簡単に見つかるものだと拍子抜けしたのも束の間、
「あれはループタイ教頭モドキですね。」
今回取材班に同行した、ループタイ教頭の生態に詳しい関東農業大学の田所博士は言いました。
「地球温暖化に伴い、少ないながらも徐々に生息数を増やしているループタイ教頭モドキです。
簡素な表皮を身に纏いつつ、首元の寂しさを補うために、時々ループタイを装着する。
しかし、日によって付けなかったり、別のものを付けたりと、その行動は安定しません。彼らの行動原理的には、ループタイは単なる飾りの一つなのです。
それに対して、本物のループタイ教頭はループタイを決して外しません。むしろループタイが本体という説もあります。」
なるほど。素人判断は禁物です。
しかし、そうなると、これまでの目撃例というのも、全てループタイ教頭モドキなのでは?
残念な予想が頭をよぎりました。
しかし田所博士は言います。
「ただ、これは良い兆候ですよ。
ループタイ教頭モドキが生息する地域に、ループタイ教頭が住み着くケースがあるのです。おそらく近縁種がいることで安心するのでしょう。
…この小学校はモドキの縄張りなので、近くの別の小学校を見に行きましょう。」
一度萎みかけた希望がまた膨らんできました。
田所博士はこのようにも言います
「実は、モドキも含めたループタイ属全体で言えば、近年は個体数が回復傾向にあるんですよ。
これは、気候変動により暑苦しく息苦しい表皮を脱ぎ捨てた個体のうちの一部が、装飾としてループタイに目を付けたことが要因です。
また、ループタイ教頭が数を減らし、『ループタイイコール教頭』というイメージが薄まったことで、自由にループタイを付ける個体が増えました。
それによって、最近では『ループタイ校長モドキ』や『ループタイ学年主任モドキ』といった新種の発見も相次いでいます。
多様性の観点から見れば、現在のループタイ属は繁栄のただ中にあるんですよ。」
その後、私たちは付近8つの小学校を調査し、そのうちの2つで、ループタイ教頭モドキの営巣を確認しました。
しかしお目当てのループタイ教頭は見つかりません。
「なかなか姿を見せてくれないですね。」
額の汗を拭いながら、田所博士は言います。
「でもこれはかなり期待が持てますよ。」
そして、訪れた9地点目。時間はすでに夜の8時を回っていました。
校舎の外には何の気配もありません。
しかしその時、「あっ!」と田所博士。
「あれあれ!見てください。校舎の2階の窓です。あそこにいます!
あれはモドキではない可能性が高いです。」
見ると、そこには確かにループタイを装着した個体が居ました。
ただ、素人の私たちには見分けがつきません。
「あの個体はですね。この暑さにも関わらずジャケットも装着しています。しかもベージュの麻製です。それをラフに羽織りながらもループタイ。モドキには出せない貫禄を漂わせています。
これから時間をかけて調査をする必要はありますが、おそらく『本物』です。」
都内にループタイ教頭が帰ってきた!
まだ確定では無いものの、私たちの郷愁を誘うあの存在ににまた逢える。
私たちの胸は躍りました。
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近年の教頭を取り巻く環境は、依然厳しいままです。
授業数減にも関わらず学習内容が増えたことにより、飛来地を奪われた「時々教室に来ては怖い話をして帰る教頭」は、ループタイ教頭同様大きく数を減らしましたが、こちらは回復の目処が立っていません。
「年1くらいでアイスを買ってくる教頭」、「昔の遊びを教えに来る教頭」なども同様に、ほとんど見ることができなくなってしまいました。
しかし…いえ、だからこそ、帰ってきたループタイ教頭の姿に、私たちは希望を見いだしてしまうのです。
厳しくも優しい眼差しで児童を見守る、あのループタイ教頭が、いつの日がまた、街なかの小学校に当たり前のように姿を見せてくれる日を夢見て。
終わり




