映画 『天気の子』③啓介と夏美
フェルン(濡れた机にそっと手を置き)
……ここ、かつて編集部だった場所みたいです。須賀啓介と夏美――あの二人がいた。
ひとり(カバンからノートを取り出して)
あ……あの人たち……帆高くんを、いちばん近くで見てた……大人……だよね……。
夏美さんは……自由そうで、でも、就活がうまくいってなくて……なんか、わたし、すごく……わかる気がして……
千里(壁に背を預けたまま、低く)
夏美は“間にいた”。
大人と子供、現実と理想、正義と犯罪の境界線。そのど真ん中。
彼女は“手を汚す”覚悟をもって、帆高を逃した。
それって、相当な選択。
フリーレン(天井を見ながら)
でも、それでも彼女は“救われた”んだと思うよ。
就活で自分の過去を語ったってエピローグが、あたし、好きだったな。
「やってきたことに意味があったかもしれない」って顔してた。
シュタルク(椅子をひっくり返して座る)
でもさ、啓介のほうは……けっこうキツくねえか?
あんとき、帆高止めようとしてたじゃん。警察に渡そうとしてたし。
そっから最後の最後に、守るほうに回ったけど……遅くね?
フェルン(やや強めに)
それが“大人”ってことなのよ。
躊躇も、後悔も、何度も選び直す時間も含めて、大人は“間違える自由”がある。
須賀圭介の選択は、あれが彼なりの“取り返し”だった。
千里(頷く)
娘を失いかけた男が、再び他人の子どもを守った。
それは彼自身の失敗と、過去への贖罪だったのかもね。
ひとり(静かに)
贖罪……
でも……それって、すごく、苦しいと思う……
「ごめんね」って言っても……戻らないもの、あるから……。
フリーレン(柔らかく)
だからこそ、あの保釈のシーンには“願い”があった。
帆高を外に出すことで、須賀自身も“もう一度生きる”ことを選んだんだよ。
シュタルク(納得いかない様子で)
でもよ、夏美のほうは“最初から行動してた”じゃん。
あれ、カッケーよな。逃げないで、車出して、警察からも睨まれて。
ああいうのって、……正直、惚れるよな。
ひとり(真っ赤になって)
う……うん……そ、それは……たしかに……かっこよかった……
千里(少しだけ笑う)
彼女は、見てたんだよ。“帆高の真剣さ”と、“陽菜の運命”を。
で、“それに応える自分”になろうとした。
自分の人生に、意味を持たせたかったんじゃない?
フェルン(鋭く)
そう。“意味を問う”って、若者がやることだと思われがちだけど、
ほんとは――“意味を見失った大人”こそが、最も求めてるのかもしれない。
フリーレン(小さく目を閉じて)
――世界は最初から狂ってる。
でも、その中でも“誰かの真剣”を見たとき、人はもう一度動き出せる。
たとえ、それが罪であっても、ね。