映画 『天気の子』②「世界は最初から狂っている」
シュタルク(雨に濡れながら、瓦礫に座って)
なあ……帆高が言ってたやつ……「世界は最初から狂ってた」ってやつ。
あれ、どういう意味なんだと思う?
フリーレン(手のひらに雨粒を受けて)
そのままだよ。
“正しいはずの世界”が、最初から“間違った前提”で組み立てられてるってこと。
たとえば――「晴れは良いこと」「雨は悪いこと」って、誰が決めた?
ひとり(フードを深くかぶりながら)
……あの……でも、学校とか、会社とか、止まっちゃって……
東京が水に沈むのって、“大変”……って、普通は思うんじゃ……?
千里(低く、端的に)
普通、の定義がもう壊れてる。
“正義”とか“秩序”って、誰の都合で作られてるか考えたことある?
陽菜一人の命と、天気と、社会。その取引を当然とする構造が、すでに狂ってる。
フェルン(静かにうなずく)
“誰かが消えることで他の誰かが救われる”……
それを正当化するのが、私たちの“社会”。
だけどその論理は、陽菜には通用しなかった。帆高には許せなかった。
シュタルク(火の消えかけたライターを擦りながら)
……でもよ、みんな、それで助かってたんじゃねーの?
雨が止んで、街が元通りになって、普通の生活が戻るんだったら……
誰かが犠牲になるのって、“必要なこと”じゃねえのか?
フリーレン(わずかに笑って)
あんた、素直でいいね。
でも、“誰か”って誰のこと? 自分じゃないからって、納得する?
もしシュタルク、お前の大事な人が“犠牲になる番”だったら、どう思う?
シュタルク(沈黙。しばらくして)
……ぶん殴る、全部。
ひとり(ふと顔を上げて)
帆高くん……そうしたんだよね。
あの雲の上で、世界じゃなくて、陽菜さんを選んだ……
それって……悪いことだったのかな……?
千里(一拍おいて)
“悪い”じゃない。“許されない”が正しい。
でも、“許されない”からこそ、“それでも”って言える人間が必要。
社会のために人が消える世界は、たしかに“狂ってる”。
フェルン(真剣な目で)
それでも、社会はその狂気の上に成り立ってる。
……陽菜の消失を受け入れた世界と、それを破壊した帆高の選択。
どちらが“まとも”かなんて、簡単には言えない。
でも私も……あの選択に……ちょっとだけ、救われた気がした。
フリーレン(空を見上げて)
世界は最初から狂ってる。
だからね――“狂ってる世界”で誰かを守るってことは、
「正しくないこと」を愛せるってことなんだよ。