映画 『天気の子』について
フリーレン(淡々と)
――結局、“天気”は戻らなかったんだよね。東京は沈んだまま。それでも、彼らは手を取り合って生きることを選んだ。
それで、いいんじゃないかな。
ひとり(ぽつり)
……私、あのとき、帆高があんなに必死に叫んで……「陽菜!」って……
あの……世界より、たった一人って……
でも、私だったら、そんな……叫べないな……。たぶん、怖くて……。
千里(小さく頷いて)
叫ぶのは簡単じゃない。
叫んだそのあとに、銃口が向いてくるから。
でも彼は、誰かが消される“構造”を、たった一人でぶっ壊した。
……それは、勇気以上に“覚悟”だと思う。
シュタルク(缶詰の匂いをかぎながら)
なあ。
俺、ずっと思ってたんだけど……
“世界”って、そんなに偉いもんなのか?
好きな子一人守れねぇで、誰が正義とか言えるんだよ。
そんなのクソくらえだろ。
フェルン(少しだけ筆を止めて)
でも、もしあなたの選んだ一人が、千人の命と引き換えになるとしたら?
“それでも”って言い切れる?
私は……それが難しいと思う。
フリーレン(穏やかに)
たぶん、千人を救うために、一人を見捨てるのは“大人”の論理。
でも、誰かにとっての“陽菜”は、唯一無二なんだよ。
その重さって、千という数字じゃ測れない。
ひとり(焚き火を見つめながら)
……陽菜さん、自分が消えるって……気づいてたのかな。
わたし……たぶん、気づいてたと思う……。
笑ってたけど、ずっと……こわかったんじゃないかな……。
あれ、演技だったと思う。消えていいって……言いたかったんじゃない。
千里(低く)
わかるよ。
“笑って去る人間”が一番危ない。
引き止めてくれる人がいないと、本当に消える。
シュタルク(うつむいて)
だから、帆高は行ったんだよな。あの雲の上に。
「生きろ」って、命令じゃなくて……一緒に生きよう、って。
あれ、カッコよかった。
フェルン(目を伏せて)
……でも、その後の東京は、ずっと雨。
経済も、生活も、変わって、みんな困って……
“その後”を考えると、あの選択を……やっぱり肯定できない人もいると思う。
フリーレン(遠くを見る)
それでも。
人間って、“いびつな選択”をしながらしか、生きられない。
完璧な答えなんて、存在しない。
だけど、だからこそ、選んだ一人を“全力で守る”価値が生まれる。
ひとり(炎の揺らぎを見ながら)
……消えそうな人を、ちゃんと見て、名前を呼べる人。
それだけで……世界がちょっとだけ、違って見えるって……思いたいな。