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映画評論  作者: 未世遙輝
6/40

映画『プライベート・ライアン』について

(喫茶店の角、夕方。雨のあとでガラスにしずくが伝っている。4人は机を囲んで、プロジェクターのスチルを前に語り始める)

夏美(スツールに足を乗せて)

はいはーい、そろそろ語っちゃおっか。今日のテーマは! はいドン、『プライベート・ライアン』! ……ってか、あの最初の海岸のシーン、マジで心臓止まるかと思ったんだけど!? えぐすぎん?


ひとり(口元に手をあてて、顔はうつむき気味)

う、うん……うん……その、わたし、ちょっと……というか、あの、あれ……弾、飛んできて、耳の音が、きゅーんってなって、で、なんか、兵士の人が自分の腕持って歩いてて……あれ、現実って、そういう……?


千里(頷き、眼差しはスクリーンに)

そう。あれは“情報量”としての戦争じゃなく、“感覚の錯乱”としての戦争描写。

ノルマンディー上陸――作戦名“オーバーロード”。生存率が一桁代の突入部隊。その「生理的嫌悪感」まで含めて、観客に体験させる設計。

銃弾の音が鼓膜を通り越す構造は、サウンド・デザインとして極めて高度。


啓介(コーヒーを片手に、肩を少しすくめる)

ま、たしかに。あの手の戦争映画って、普通は“英雄神話”っぽくなるもんだけどさ、スピルバーグは違うんだよな。“人が死ぬ重さ”を徹底的に写してる。

ミラー大尉が何度も「名前を覚えるな」「区別しろ」と言うのも、結局その死の“麻痺”とどう付き合うかって話だよな。


ひとり(少しだけ顔を上げて)

で、でも……ミラーさん、戦場では命令して、部下が死んでも冷静で。でも、ライアンを見つけたあと、自分が指揮した戦いで……その……死んじゃって……。

あの、手が震えるとことか、わたし、たぶん、PTSDっていうか……あれ、教師だったのに、って……


千里(すっと返す)

元・英語教師。つまり、“言葉”を武器にしていた人間が、“弾丸”で人を救うという矛盾の只中にいる。

“任務”の名のもとに、彼は“意味”を消費しながら人を殺していた。


夏美(目を大きくして)

わ、それ聞くだけで辛いんだけど。てか、“消費される意味”って何それ、哲学? なんで戦争って、命の値段つけられちゃうの?


啓介(軽くため息をついて)

国だよ。制度だよ。国家は「多数を救うために少数を犠牲にする」って理屈で動いてんの。

だから“プライベート・ライアンを救え”って任務だって、言ってみりゃ「国民感情への投資」だよ。戦死者の親たちに、「残り1人は帰しました」って言えるように。PRだ。


千里(静かに)

戦術的合理性はゼロ。“正しさ”という名の慰霊行動。そのために、8人の兵士が命を懸ける。


ひとり(震える声で)

あの、ライアンが最後に、お墓の前で「Am I a good man?」って言うでしょ? あれ、たぶん……“生き残っちゃった人”の、答えが出せない苦しみ、っていうか……

戦争が終わっても、戦場は、ここ(胸を押さえて)に残ってるって……


夏美(一瞬沈黙してから)

……ほんと、それだよね。だってさ、最後のシーン、音楽もほとんどなくて、“祝福”じゃないじゃん。

あれ、“生きた重み”っていうより、“死者の重みを背負う人生”って感じじゃない?


啓介うなずく

ライアンは結局、“自由”を得たんじゃなくて、“責任”だけを与えられた。

ミラーは「Earn this.(この命を、意味あるものにしろ)」って言い残して死ぬけど、その言葉自体が重すぎるんだよな。下手すりゃ、呪いだよ。


千里(わずかに目を伏せて)

あれは、“恩義の強制”。戦場から戻った兵士に、“英雄であれ”と社会が求める圧力でもある。

だからライアンは墓前で“許し”を乞う。自分の人生が、あの犠牲に値するものであったかを。


ひとり(ぽつりと)

あの、ちょっとだけ……ライベンのこと、言ってもいいですか……?

彼って、ふざけてるけど、すごく人間らしくて……隊の中で、いつもムード変えてくれて……

最後、泣きながら「またこんなことをしろって言われたら、絶対やらない」って言ってた……それが、“答え”なんだって、わたし、思ってて……


千里(まっすぐ見つめて)

そう。彼の言葉だけが、“戦場に希望はない”という真実を正面から語った。


夏美(テーブルを軽く叩いて)

……いや、まじで、わたし、こういう話すると、FPSとか無理になる。

ほんと、戦争って、映画で見ると遠いけど……一歩間違えば、わたしたちも、“選ばれる側”になるって思った。

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