映画『ザ・メニュー(The Menu)①
Scene:ある宿の食堂、スロウィクの話を聞いた三人が食後に語り合っている
フェルン
「……料理って、怖いですね。
美味しいものを作るはずの人が、あんなふうに人を殺そうとするなんて」
シュタルク
「いやいや! 俺、あのパンの皿だけでビビったよ!
パンがないパン皿って、なにそれ!? “洒落”ってやつか!?」
フリーレン
「洒落ではない。
あれは、“君たちにはこの程度で十分だ”という無言の上下関係の提示。
“味”を抜いても人は拍手する。その欺瞞を皮肉った料理だよ」
フェルン
「つまり……高級レストランが“味”じゃなくて“権威”を売ってるってこと?」
フリーレン
「そう。味覚よりも、メニュー、背景、シェフの名前。
味わっているのではなく、“選ばれた私たち”を消費している。
それをスロウィクは焼き尽くした」
シュタルク
「それでも……あのチーズバーガー、うまそうだったよな。
シンプルで、なんか、ちゃんと腹が減ってる人が頼むって感じで」
フェルン
「そこが大事なのかもしれません。
“食べたい”って、誰かのためじゃなくて、自分のための欲望だから」
フリーレン
「マーゴが唯一、生き残った理由だね。
彼女は“お客様”をやめて、“空腹なただの人間”になった。
それが芸術家にとって、初めて“料理”を作る相手だったのだろう
話題転換:芸術と暴力
フェルン
「でも、なぜスロウィクは全員を殺すなんて選んだんでしょうか。
自分の芸術を、焼き尽くすように」
フリーレン
「“死”を持ってしか終われなかったからだよ。
芸術家が、商品とされることに抗う最後の方法。
観客も、評論家も、信者も、全てをまとめて“燃やす”しかなかった」
シュタルク
「でも、それじゃあ、料理って……結局、誰のために作るんだよ?」
フェルン
「きっと、“ちゃんと腹を空かせている人”のため、なんじゃないですか?」
フリーレン
「そして、“味わう”という行為は、過去と未来の記憶を繋ぐもの。
あのチーズバーガーは、少年だったスロウィクの“笑顔の記憶”を呼び戻した。
死の直前、彼は少しだけ、人間だった
結びの一言
シュタルク
「なあ……俺たちが今食べてるこのスープって、そう考えるとちょっと泣けてくるな……」
フェルン
「……シュタルク。涙の塩分は味を壊します。ちゃんと味わってください」
フリーレン(ぼそっと)
「“食べるな。味わえ”って、そういうことか