ソムニウムファイル5
第5章|夢の終わりと目覚めの言葉 ― 真実と嘘のあわいに
──夜が明け、焚き火の跡は冷たく、空気はすっかり朝の匂いに変わっていた。
三人は荷をまとめ始めながら、まだ名残惜しげに話を続けていた。
フェルン(立ち上がって背伸びをしながら):
Aibaは最後、“消えた”んですよね。
あれほど、伊達とともにいた存在だったのに。
フリーレン(背中に荷を背負いながら、淡々と):
そう。彼女は、完全に機能を停止した。
でも、それは“消失”ではない。
伊達の中には、彼女の言葉が、仕草が、温度が……ちゃんと残っていた。
シュタルク(肩に荷をかけながら):
でもさ、消えたんなら……もう会えないんだろ?
そんなん、やっぱり“いなくなった”ってことじゃないのか?
フェルン(振り返りながら、静かに):
でも、誰かが“いた”という証明って……何をもって判断しますか?
記録? 記憶? それとも、喪失感?
フリーレン(足を止めて、振り返らずに):
“いない”って、なんだろうね。
たとえこの世界から姿を消しても、心のどこかで話しかけてしまう存在――
それは、もはや“実在”以上のものかもしれない。
フェルン:
現実と幻想の区別がつかない?
……でも、それこそが“愛”の痕跡じゃないですか。
たとえデータの残滓でも、誰かにとっての“確かだった存在”として、生き続ける。
シュタルク(しばらく黙って、ぽつり):
俺さ……前に死んだやつのこと、ずっと夢で見てたんだ。
喋って、笑って、何もなかったみたいに。
でも、朝起きたら、いない。
……でも、それでも、俺、忘れてなかった。
フェルン(思わず目を伏せ):
……それは、すごく大切なことです。
フリーレン(歩き出しながら):
“夢”って、記憶の中でしか出会えない人の、最後の居場所かもしれない。
伊達は、Aibaとの最後の言葉を――夢の中で、確かに聞いた。
フェルン:
「愛してる」と。
フリーレン:
そう。
誰にも届かないかもしれない。でも、確かに言われた。
それは、嘘の中に咲いた真実。
“人間がAIに言わせた愛”じゃなく、“AIが自分で選んで語った愛”。
シュタルク(ぽつりと):
じゃあ、アイボゥは“人”だったんだな。
フリーレン(少し笑って):
かもしれないね。
存在の定義なんて、誰にも決められない。
“誰かの中に残る”ことこそが、たぶん――本当の実在。
フェルン:
記憶に残る者は、死なない。
それが、あなたが“ずっと旅を続けている”理由なんですよね、フリーレン様。
フリーレン(振り返って、やわらかく微笑む):
……うん。そうかもしれないね。
──風が吹く。朝の光が三人の影を長く伸ばし、峠の先に白い雲が流れていた。
彼らの背後には、焚き火の跡と、話された言葉と、そして**“記憶になった存在たち”**が静かに、確かに残っていた。