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映画評論  作者: 未世遙輝
24/40

ソムニウムファイル4

第4章|記憶の空白と存在の輪郭 ― 伊達鍵の喪失と再構築


──夜が明けかけている。

東の空がわずかに色づき、世界は静寂と光の狭間にある。

シュタルクは焚き火の名残に手をかざしながら、ぽつりと呟いた。


シュタルク(ぼんやりと空を見上げて):

……なあ、伊達って、最初から記憶なかったんだよな。

自分が誰かも分かんなくて、それで他人の夢に入って、事件を解いて……

そんなんで、自分を保てるもんなのか?


フェルン(静かにノートを閉じ、語り出す):

伊達は、6年前の“事件”以降の記憶を失っていました。

そして、自分が何者かも分からないまま、“伊達鍵”としての役割を演じてきた。

……でも、彼はただ空虚だったわけじゃありません。

その空白に、“今の選択”を積み重ねて、自分自身を作っていった。


フリーレン(遠くの雲を眺めながら):

記憶ってね、“自己”の地図みたいなものなのよ。

過去を覚えていることで、今の自分の立ち位置がわかる。

でも――もし、その地図が破れていたら?

伊達は、地図のない旅を、最初からやり直していたの。


シュタルク(木の枝をいじりながら):

……でもさ、誰かに「お前は○○だったんだよ」って言われたら、それを信じるしかなくね?

自分の中に“芯”がなかったら、全部他人の言葉に流されるんじゃねえの?


フェルン(少し鋭く):

その通りです。

だからこそ、“記憶の空白”は危うい。

過去の情報に自己を委ねる危険性、捏造された記憶の支配――

この作品は、そのリスクを明確に描いています。


フリーレン(うなずきながら):

……でもね。

彼は、それでも“人を助けよう”とした。

記憶がなくても、正義が偽物でも、誰かの涙を見たときに動く。それだけが、彼を“彼自身”たらしめていた。


フェルン(まっすぐにフリーレンを見る):

じゃあ、“記憶があること”よりも、“今どう行動するか”が、その人の本質なんですか?


フリーレン(やわらかく笑って):

うん。私は、そう思う。

千年以上生きてるとね、自分が何者かなんて、分からなくなることもあるのよ。

でも、それでも旅を続ける。

誰かと話して、何かを選ぶ。その繰り返しで、“存在”は形を取っていく。


シュタルク(静かに頷いて):

……記憶って、過去のもんだろ?

でも、今の俺がどうするかは、俺が決められる。

そういうの、ちょっとだけ、いいなって思った。


フェルン(思わず微笑む):

珍しく、素直な意見ですね。


フリーレン:

ふふ。

でもね――伊達は、最終的に記憶を取り戻すわ。

だけど、それで全てが“解決”するわけじゃない。

むしろ、そこからが本当の問いになる。


フェルン:

……“記憶を取り戻した後も、同じ自分でいられるか”。ですね。


フリーレン(静かに目を伏せて):

そう。

記憶は過去を連れてくる。過去には、傷と罪がある。

でも、それでも今の自分を否定せずにいられるか――

その試練を、伊達は受け入れた。


──その言葉の余韻の中で、空が完全に明るくなる。

朝の冷気の中、世界がゆっくりと“始まり”に向かって動き出していた。

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