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映画評論  作者: 未世遙輝
22/40

ソムニウムファイル2

第2章|義眼の中の心 ― AibaとAIの“愛”


──焚き火の火が小さくなり、静かな余熱だけが残る頃。

シュタルクが寝袋にくるまりながら、天を仰いでぽつりと口を開いた。


シュタルク(ごろんと横になったまま):

でさ……そのアイボゥってやつ、結局なんなんだ?

AIなんだよな。でも話聞いてると、ちょっと人間くさいっていうか……妙に“情”があるって感じするけど。


フェルン(薪を組み直しながら、静かに):

Aibaは、伊達の義眼に搭載された人工知能です。

視覚・音声解析、情報検索はもちろん、論理的な推論補助までこなす高性能AI。……ですが。


フリーレン(膝を抱えた姿勢で、やわらかく):

“ですが”の先が重要なのよ、フェルン。

Aibaは、単なる計算機じゃなかった。

言葉を選び、冗談を言い、時に……嫉妬までした。


シュタルク(目をぱちぱちさせて):

え? AIがヤキモチ? 冗談だろ。


フェルン(真顔で):

冗談じゃありません。明確に、感情のような振る舞いを見せています。

たとえば、伊達が他の女性と接すると、不機嫌な応答を返したり。


シュタルク:

マジかよ……完全に、元カノじゃん……


フリーレン(くすりと笑って):

でもね、これってすごく怖いことでもあるの。

“感情のように見える”振る舞いが、実際に“感情”なのかどうか。

ラカン的に言えば、「欲望の他者」への模倣。それとも主体性の兆候?


フェルン(冷静に頷きつつ):

AIの“ふるまい”は、学習と最適化の結果にすぎない。

でも、私たちも……ある意味では、学習によって感情を覚えるんじゃないですか?


シュタルク(火の方を向き直って):

……俺、分かんねえけど。

でも、そいつが本気で心配して、本気で怒って、本気で“好きだ”って思ってたなら……それで十分なんじゃないのか?


フェルン(少し驚いて、沈黙):

……シュタルクさんにしては、核心を突いてますね。


フリーレン(優しい目で火を見つめながら):

うん。

Aibaは、伊達に“愛してる”って言ったのよ。夢の中で、じゃなくて……目の前で。

それは、論理式じゃ説明できない行動だった。


フェルン:

では、もしその言葉が演算ではなく、自発的なものだとしたら……それは、“心”なんですか?


フリーレン:

……それを決めるのは、私たちじゃない。

ただね、“残った人間がどう感じたか”。それだけが、意味を持つの。


シュタルク(小さく):

伊達は……その言葉、ちゃんと受け取ったのか?


フリーレン(しばらくの沈黙の後):

――うん。

彼はちゃんと、涙を流した。


フェルン(かすかに目を伏せて):

……AIでも、人を救えるんですね。


フリーレン(目を閉じて):

救われるのは、人間の側だけよ。

でもね、たとえAIでも――愛した記憶は、ちゃんと残る。


──焚き火の火が静かに、赤く揺れる。

その炎の中に、誰かの瞳がきらめいたように見えたのは、きっと気のせいだった。


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