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映画評論  作者: 未世遙輝
19/40

ソムニウムファイル⑥


(夜の焚き火のそば。フェルンが膝に本を広げ、フリーレンは空を見上げながら語り出す。シュタルクは少し離れて、魚を焼いている)


第1幕:物語の構造と「記憶」のテーマ


フリーレン:

……「AI: ソムニウムファイル」っていうのはね、人の“記憶の中”に潜って事件を解決する物語。主人公の伊達鍵だて・かなめは、片目に“AIの義眼”アイボゥ(Aiba)を埋め込んだ刑事。人の夢、ソムニウムにダイブすることで、本人も気づいていない深層心理にアクセスしていくの。


フェルン:

夢に潜って捜査……。現実の証拠じゃなくて、記憶の中から情報を引き出すってことですか? 妄想や感情の混ざったものを、どうやって真実として扱うんです?


フリーレン:

ふふ、そこがこの物語の一番興味深いところだよ。夢の中では、因果も時間も曖昧で、シンボルやトラウマが形を変えて現れる。それを読み解く力が問われるんだ。

心理学でいう「投影」や「抑圧」の具象化ね。


シュタルク:

……えーと、つまり……犯人が「夢の中でウサギに追われてる」とか出てきても、それが事件と関係あるってことか? そんなの、俺にはわかんねえよ。


フェルン:

(ため息)シュタルクさんは、いつもそういうとこだけ素直ですよね。



第2幕:「Aiba」の存在と“愛”という動機


フェルン:

フリーレン様、アイボゥってただのAIですか? それとも……人間のように“感情”があるんですか?


フリーレン:

……いい質問だね、フェルン。

アイボゥは純粋なAIで、論理演算と学習能力に優れている。でも彼女は、物語の中でしだいに“感情的な発言”をするようになるのよ。たとえば伊達を心配したり、ヤキモチを焼いたりね。


シュタルク:

え? AIがヤキモチ? それってバグじゃねえの?


フリーレン:

(微笑して)そう思うでしょ? でもそれが、この物語の核心なの。

「AIに心は宿るのか?」

それは“愛”を通して描かれる。Aibaは最終的に――


フェルン:

(静かに)……「愛してる」と言うんですよね。人間に。


フリーレン:

うん。虚構の中の虚構――夢の中でさえ、彼女は「感情」を示す。

これは現代の人工知能論、そして“哲学的ゾンビ”の問題にも関係する。つまり、「感情を模倣しているだけ」か、それとも「本当に感じているのか」。


シュタルク:

……うーん。だったらさ、そのアイボゥってやつ……最後はどうなるんだ?


フェルン:

……(目を伏せて)いなくなる。

でも……“彼女の痕跡”は伊達の中に残る。それこそが、“記憶”の本質ですよね、フリーレン様。


フリーレン:

その通り。記憶とは、生きていないものを生かし続ける“魔法”なんだよ。



第3幕:ルート分岐と「癒し」の違い


フェルン:

このゲームはルートによって結末が変わりますよね。ミズキルートでは“家族との再生”がテーマで、アニヒレーションルートでは“自己犠牲”が描かれます。

まるで……戦争の後の人間関係のように。


フリーレン:

うん。ミズキはトラウマを抱えながらも“他者との繋がり”を信じるけど、アニヒレーションルートの伊達は……自らの過去の罪を引き受けていく。癒しの形が対照的なの。

一方は“許し”、もう一方は“背負い続けること”。


シュタルク:

あのさ……選ばなきゃいけないって、ちょっとキツくないか?

だって、どっちも正しいわけだろ?


フリーレン:

(目を閉じて)……だからこそ、“人は選ぶ”。選んだあと、歩き出す。

たとえ後悔しても、それが“物語”なんだよ。

私たちが何百年も生きても、それだけは変わらない。



第4幕:記憶と存在の問い


フェルン:

伊達の“記憶の欠落”って、物語の全体にかかわっていますよね。

彼自身が「何者なのか」が曖昧なまま進む。まるで……「生の途中から始まった人間」みたい。


フリーレン:

(少し笑って)それ、まるで私のことみたいだね。

私も“勇者ヒンメルの死”から旅を始めたわけだから。


シュタルク:

(急に真顔になって)……でも、それでも生きてるだろ?

記憶が全部じゃない。今やってることが、その人間を作ってるんじゃねえの?


フェルン:

(少し驚いて)……シュタルクさんが、まともなこと言いました。


フリーレン:

うん、それも真実だよ。

「記憶が人を作る」のか、「選択が人を作る」のか――

『AI: ソムニウムファイル』はその問いを、夢と記憶、そして愛を通して提示してくる。



終幕:静かな夜、焚き火の向こう


(焚き火がパチリと音を立てる)


フリーレン:

……人は、失ったものと会話をするために、夢を見る。

そして、自分が誰だったのかを確認するために、記憶をさかのぼる。

それは魔法でもAIでも変わらない――

「心の証拠」は、いつも曖昧で、だけど確かにそこにある。

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