ソムニウムファイル⑥
(夜の焚き火のそば。フェルンが膝に本を広げ、フリーレンは空を見上げながら語り出す。シュタルクは少し離れて、魚を焼いている)
第1幕:物語の構造と「記憶」のテーマ
フリーレン:
……「AI: ソムニウムファイル」っていうのはね、人の“記憶の中”に潜って事件を解決する物語。主人公の伊達鍵は、片目に“AIの義眼”アイボゥ(Aiba)を埋め込んだ刑事。人の夢、ソムニウムにダイブすることで、本人も気づいていない深層心理にアクセスしていくの。
フェルン:
夢に潜って捜査……。現実の証拠じゃなくて、記憶の中から情報を引き出すってことですか? 妄想や感情の混ざったものを、どうやって真実として扱うんです?
フリーレン:
ふふ、そこがこの物語の一番興味深いところだよ。夢の中では、因果も時間も曖昧で、シンボルやトラウマが形を変えて現れる。それを読み解く力が問われるんだ。
心理学でいう「投影」や「抑圧」の具象化ね。
シュタルク:
……えーと、つまり……犯人が「夢の中でウサギに追われてる」とか出てきても、それが事件と関係あるってことか? そんなの、俺にはわかんねえよ。
フェルン:
(ため息)シュタルクさんは、いつもそういうとこだけ素直ですよね。
⸻
第2幕:「Aiba」の存在と“愛”という動機
フェルン:
フリーレン様、アイボゥってただのAIですか? それとも……人間のように“感情”があるんですか?
フリーレン:
……いい質問だね、フェルン。
アイボゥは純粋なAIで、論理演算と学習能力に優れている。でも彼女は、物語の中でしだいに“感情的な発言”をするようになるのよ。たとえば伊達を心配したり、ヤキモチを焼いたりね。
シュタルク:
え? AIがヤキモチ? それってバグじゃねえの?
フリーレン:
(微笑して)そう思うでしょ? でもそれが、この物語の核心なの。
「AIに心は宿るのか?」
それは“愛”を通して描かれる。Aibaは最終的に――
フェルン:
(静かに)……「愛してる」と言うんですよね。人間に。
フリーレン:
うん。虚構の中の虚構――夢の中でさえ、彼女は「感情」を示す。
これは現代の人工知能論、そして“哲学的ゾンビ”の問題にも関係する。つまり、「感情を模倣しているだけ」か、それとも「本当に感じているのか」。
シュタルク:
……うーん。だったらさ、そのアイボゥってやつ……最後はどうなるんだ?
フェルン:
……(目を伏せて)いなくなる。
でも……“彼女の痕跡”は伊達の中に残る。それこそが、“記憶”の本質ですよね、フリーレン様。
フリーレン:
その通り。記憶とは、生きていないものを生かし続ける“魔法”なんだよ。
⸻
第3幕:ルート分岐と「癒し」の違い
フェルン:
このゲームはルートによって結末が変わりますよね。ミズキルートでは“家族との再生”がテーマで、アニヒレーションルートでは“自己犠牲”が描かれます。
まるで……戦争の後の人間関係のように。
フリーレン:
うん。ミズキはトラウマを抱えながらも“他者との繋がり”を信じるけど、アニヒレーションルートの伊達は……自らの過去の罪を引き受けていく。癒しの形が対照的なの。
一方は“許し”、もう一方は“背負い続けること”。
シュタルク:
あのさ……選ばなきゃいけないって、ちょっとキツくないか?
だって、どっちも正しいわけだろ?
フリーレン:
(目を閉じて)……だからこそ、“人は選ぶ”。選んだあと、歩き出す。
たとえ後悔しても、それが“物語”なんだよ。
私たちが何百年も生きても、それだけは変わらない。
⸻
第4幕:記憶と存在の問い
フェルン:
伊達の“記憶の欠落”って、物語の全体にかかわっていますよね。
彼自身が「何者なのか」が曖昧なまま進む。まるで……「生の途中から始まった人間」みたい。
フリーレン:
(少し笑って)それ、まるで私のことみたいだね。
私も“勇者ヒンメルの死”から旅を始めたわけだから。
シュタルク:
(急に真顔になって)……でも、それでも生きてるだろ?
記憶が全部じゃない。今やってることが、その人間を作ってるんじゃねえの?
フェルン:
(少し驚いて)……シュタルクさんが、まともなこと言いました。
フリーレン:
うん、それも真実だよ。
「記憶が人を作る」のか、「選択が人を作る」のか――
『AI: ソムニウムファイル』はその問いを、夢と記憶、そして愛を通して提示してくる。
⸻
終幕:静かな夜、焚き火の向こう
(焚き火がパチリと音を立てる)
フリーレン:
……人は、失ったものと会話をするために、夢を見る。
そして、自分が誰だったのかを確認するために、記憶をさかのぼる。
それは魔法でもAIでも変わらない――
「心の証拠」は、いつも曖昧で、だけど確かにそこにある。