映画 永遠の0
【場面:深夜のカフェ・フロア。みんなで映画鑑賞会のあとのトーク】
◆千束(足をソファに投げ出しながらミルクを飲む)
「うわぁ〜。『永遠の0』、やっぱり何回見てもズドンと来るねー……。なんでかな、“死んだのに説教されてる気がする”映画って。珍しいよね、あれ。」
◆ひとり(目を伏せて手元のストローをいじりながら)
「う、うん……わたし……あの、“誰かが生きるために自分は死ねる”って言葉、ずっと頭の中に残ってて……。でも、でも……そんなの、できないよ、って思ってしまって……」
◆シュタルク(勢いよくコーヒーを飲み干して)
「いや、それ、普通だろ。俺もさ、“生きて帰れ”って言われても……逆にプレッシャーっていうかさ。……“俺なんかが生きてていいの?”みたいな気持ち、めっちゃ分かる。」
◆フェルン(少しだけ笑って、でも静かに)
「それでも宮部は、“生きて”って言った。あの時代に、“死ぬな”って言い続けた。……それって、制度をぶん殴るぐらいの勇気が要るわ。」
◆千束(軽い口調で)
「そうそう。特攻隊で“生き残ることを考えろ”とか、マジでアウトだもん。当時の軍人から見たら、“裏切り者”ってレベル。でも宮部は、“そう言わなきゃいけない理由”を、死ぬまで持ち続けた。……なんていうか、死んだことで“逃げた”んじゃなくて、“引き受けた”んだよね、ぜーんぶ。」
◆フリーレン(窓の外に目を向けたまま、ゆっくりと)
「彼の死は、美談じゃない。……あれは、“倫理の答え合わせ”だった。死ななくてもよかった。でも……死ななかったら、他の誰かが死ぬ。それを分かっていて、命の使い方を選んだ。……人間の時間軸の中で、それはすごく重いこと。」
◆ひとり(小声で)
「わたし、あの……“自己犠牲”って……なんか怖いです。だって、わたし、いつも“いなくなったほうが楽”とか考えちゃうから……。でも、宮部さんの死は、それと違うっていうか……ちゃんと、“誰かを生かすため”だったから……余計に、すごくて、怖い……」
◆フェルン(穏やかな声で)
「あなたの感じ方は、間違ってない。……あれは、“犠牲”じゃない。“責任”だったの。自分が生き残って、他の若い兵士が死んだ。それがずっと彼の中で重くなって……最終的に、自分が死を引き受けた。つまり、選んだの。」
◆シュタルク(小さくうなずいて)
「……だから、かっこいいって思うけど……やっぱ、苦しいよ。だってさ、戦争って、なんかさ、“誰かが正しいことをやるたびに、誰かが傷つく”って構造じゃん?」
◆千束(にこっと笑いながら)
「そうそう。“優しさ”が一番罪深い場所だよね、戦争って。だから宮部の死って、見終わったあとも、モヤモヤする。でもさ、そのモヤモヤが、たぶん“考えさせられてる”ってことなんだよね。」
◆フリーレン(少しだけ間をおいて)
「問いを残す死。……それは“人間らしさ”の証明。正しさじゃなくて、揺らぎや矛盾を引き受ける行為。宮部は、“制度の中で、人間であり続けた”最後の一人だったのかもしれない。」
◆フェルン(結論のように、静かに)
「死んでしまえば、もう声はない。だからこそ、“何を残すか”が重要になる。……宮部久蔵は、“誰かが生きている”という現実そのものを残した。それって、本当に強いことだと思う。」
◆ひとり(涙をぬぐいながら、でもほんの少し微笑んで)
「……うん。“どう死ぬか”って、“どう生きるか”とつながってるんですね……」