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衛兵の目撃談 3

 ……正直なところ、このときロアナは非常に緊張していたのだ。


 はじめて訪れた一の宮は、イアンガードがおおらかに治めるのどかな二の宮とはまた違った雰囲気。

 厳格そうなその空間のどこかに、君主たる国王とその王妃がいるのだと思うと……。

 ロアナは、緊張のあまり身体の震えがずっと止まらない。

 しかも時は夜間。

 その独特の静けさは、ちょっぴりビビりなロアナの想像力を掻き立ててしまう。


(……こんな静寂のなかで……もしわたしが何か失敗して大きな音でも響かせてしまったら……そこら中から衛兵がとんできて、即刻捕縛されてしまうのでは……)


 先日、リオニー妃にかなり横暴な理由で罰せられたトラウマもあったのだろう。ロアナは考えただけでも恐ろしい。

 そんなことになれば、ここまで連れてきてくれた侍女頭にもきっと迷惑がかかってしまう。

 そう考えるとよけいにプレッシャーを感じて緊張は高まる。吸う息も次第に浅くなっていくようで苦しかった。


 ……しかし。そんなときにかぎってトラブルは起こってしまうもの。

 ある理由で廊下で一人きりになってしまったロアナは、とたんに衛兵に絡まれて涙目になるはめに。


「い、いえ……ですから! 違うんです! わたしは不審者では……」


 ウルツの私室前で、ロアナは半べそで主張した。

 彼女の前には衛兵が三名。屈強な男たちに囲まれたロアナの緊張はもはや頂点にまで達する。


(ど、どうしたらいいのっ⁉)

 

 ──このような事態になってしまった経緯はこうだった。


 ウルツに会うために、イアンガードに頼み込んで一の宮を訪れる許可をもらったロアナ。

 もちろん一人ではない。ここまでは侍女頭のマーサが付き添ってくれた。


 しかし、待てども暮らせどもウルツは部屋に帰ってこない。(※階下で周回中)

 これには時間に厳しく短気な侍女頭が眉をひそめた。

 

『……おかしいわね……すでに執務室を出られたという話だったのに……』

『すみません、わたしのお願いのせいで……』


 恐縮するロアナに、しかし、この件のだいたいがイアンガードの企みによるものだと知るマーサは、きっぱりと首を振る。


『いいえお前のせいではないわ。……しかたないわね。ちょっと様子を見てくるわ』

『それならわたしが……』


 行く、と、申し出ようとしたロアナを、侍女頭は再び首を振って制止。


『一の宮のことを何も知らないお前には無理よ、いいからそこで待ってなさい』


 そういって、侍女頭は廊下にロアナを置いていってしまった。

 だが確かにそれはその通りである。

 美しく整えられた一の宮は、整然としていてどこを見ても同じに見えるし、それにとても広い。

 右も左もわからぬロアナでは、きっとかどを二つも曲がれば道に迷ってしまうだろう。


 そういうわけでロアナは、こうしてひとり、ウルツの私室前でその主の帰りを待っていたのだが……。


 ぽつんと所在なさげに立っていたロアナは、マーサと別れてすぐにこうして衛兵たちに怪しまれることに。

 これはロアナも悪かった。衛兵が巡回に来たとたん、オロオロし過ぎなのである。


「ほ、ホントに違うんですぅ……!」


 ただあなたたちが怖かっただけ……とは言えないロアナはどうしていいか分からずなかばパニック。

 なんとか釈明したいロアナを、しかし衛兵たちは慌てたように小声で制する。


「おい! お、お前やめろよ……! ここをどこだと思ってんだ!」

「第三王子殿下の部屋の前で大きな声を出すな! 第四王子殿下のお部屋はあっちだと何度言ったらわかるんだ……!」


 小声で叱責されたロアナは、鼻をすすって首を傾ける。


「だ、第四……王子殿下……?」


 なぜそこでまったく面識のない王子が出てくるのかが分からず、ロアナはハテナ顔。


「ち、違うんです、わ、わたしがお会いしたいのは第さ……」

「いい、いい。言い訳は。分かってんだ、どうせまた殿下の悪い癖が出たんだろ? 俺たちはなぁんにも見てない。見てないから、さっさとあっちへいけ! しっし!」

「⁉ ⁉」


 まるで犬にでもするように、しっしと手で追い払われたロアナは目を白黒させている。

 どうやら衛兵たちは、何か思い違いをしているらしい。男たちは呆れたような、迷惑そうな顔でため息。


「……なんでよりによってウルツ殿下の部屋と間違うかねぇ……」

「殿下に見つかると、またロスウェル様と険悪に──」

「ん? わたしが何?」

「「「!」」」

「⁉」


 その瞬間、衛兵らがそろってギョッとして、ロアナはその衛兵らの顔面に驚いた。


「ど、どうし……?」


 と、ロアナは気がつく。何やら肩がずしりと重い。

 えっと思って横を向くと、いつの間にやら自分の肩に誰かの腕が乗っている。


「……へ?」


 その腕をたどっていくと、ごく間近に見知らぬ誰かの空色の瞳。その主は、ぽかんとする彼女を、興味深々という目で見つめていた。


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