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現代物作品詰め合わせ

五人囃子だってロックしたい

作者: 平井敦史
掲載日:2025/03/07

 ロックしたい。


 俺がそう呟くと、隣の席のつつみが呆れたような表情で応じた。


「はい? 笛吹うすいくん、何言ってるんすか?」


「だから、俺はロックがやりたいんだよ!」


「いやいや、駄目でしょそんなの。女の子たちの夢が壊れちゃうっすよ」


 そんなの知るか、とは口にできない。

 俺たちは日本の古き良き伝統を担う存在。

 俺自身、そのことに誇りをいだいてはいるのだが――。


「そんな程度で壊れやしねえだろ。うちのお嬢さんだって、ロックはお好きだし」


「いや、だからって……」


 などというやり取りを堤と交わしていると、もう一つ向こうの席の大川おおかわが割り込んできた。


「何何? 笛吹うすい、ロックやりてぇの? けど笛ってあんましロック向きの楽器じゃねぇだろ」


 うん、まあ普通は使わねぇよな。


「ギターなら弾けるよ」


「マジで!? じゃあ、俺もやりたい!」


「は? 楽器は何をやるんだよ。大皮鼓おおかわつづみでビートを刻もうってか?」


「なわけねえだろ。こう見えてもベース弾けるんだぜ」


「おお、なら結構だ! あと、ドラムは醍醐だいごに頼むか」


 大川のもう一つ向こうの席で、醍醐がこちらを向いた。


「おいこら、勝手に巻き込むな。まあ、やってもいいけどさ。それにしても……」


「何だよ」


日向ひなたさんにいいとこ見せたいのか?」


 ッ! そんなんじゃねぇよ!

 そりゃあ、日向さんは可愛いよ。正直、憧れてた。けど別に……。


「おうおう、一途だねぇ。彼女、小田入おだいりと付き合ってるっていうのにさ」


「だから違うって!」


「何だか知らないけど盛り上がってるねえ」


 俺たちの会話に割り込んできたのは、仲良し三人組女子の一人、長柄ながえさんだ。他の二人、三方みかたさんと桑江くわえさんも一緒にいる。


「ああ。笛吹がロックをやりたいとか言い出してさ。みんなでろうって話になってるんだよ」


 大川がそう言うと、堤がびっくりしたような声で叫んだ。


「えっ! 僕も参加することになってるんすか?」


 当たり前だろ。あと、当然ヴォーカルは仰木おおぎだな。

 反対側の席を振り返ると、仰木が仕方ねえなと言いたげな表情で笑っていた。


「ねえ、堤くんは何の楽器をるの?」


 桑江さんに尋ねられて、堤はかすかに頬を染めながら答えた。


「あ、うん。キーボードなら弾けるっす。……って、笛吹くん、何ニヤニヤしてるんすか!」


べっつにぃ~」


 とにかくそんなわけで、俺たち五人はバンドを組むことになった。


「笛吹くんたち、バンドやるんだって? わー、聴きたい聴きたい!」


 日向さんもそう言ってくれたし、もうこれはやるっきゃない。


「小田入と二人で聴きに来るんだろうな」


 おいこら、大川! 余計なこと思い出させるな!


 チューニングを終えて弦をかき鳴らすと、何とも言えない高揚感に包まれる。

 元はと言えば、うちのお嬢さんが某ガールズバンドアニメにハマって、ギターまで買ってきてやり始めたのがきっかけだったんだよな。

 あの頃は、休みの日には一日中ギターの音色が響いてたっけ。

 それで俺もギターに手を出してしまったのだけれど、ふとあの頃のことを思い出して、無性に弾いてみたくなったのだ。

 だから日向さんは関係ないぞ。念のため。



 一ヶ月ほど練習して、今日は三月三日。

 いよいよ、俺たちのバンド「ひなまつりトリッキートイズ」のお披露目ひろめライブだ。

 日向さん(と小田入)や、長柄さんたちも観に来てくれている。

 メインヴォーカルの仰木がマイクを握り、宣言した。


「それじゃあ一曲目、聴いてください。『だんごはおかず』!」


「なんだそれー!」


 すかさず観客席からツッコミが入る。

 ノリのいいやつらだ。


 醍醐の精確なスティックワークと、大川の力強いベースラインがリズムを刻み、俺のギターと堤のキーボードが奏でるメロディが絡み合う。

 そして、仰木の伸びやかなハスキーボイスが聴衆を魅了する。

 うん、やっぱ最高だな!


 最後の曲の前に、仰木のMCが入る。


「みんな、今日はありがとー! ひなまつりトリッキートイズは、いつまでも、いつまでも、ひなまつりです!!」


 皆の目が点になった。



 3曲演奏し終えて、ライブは大盛況のうちに幕を閉じた。

 俺たちがぐったりしていると、どこからかギターの音色が聞こえてきた。

 ギブソンレスポールの深みのある中低音域。

 うちのお嬢さんが高校生だった頃に、某アニメの影響で、丸1年バイトして買ったやつだ。

 あれからもう十五年も経つのか。早いものだ。


「色々あったよなあ」


 仰木がしみじみと呟く。

 そりゃあ、お嬢さんももう三十路みそじすぎだからな。

 受験のストレスで五キロほど太ったり、就活のストレスで円形脱毛症になったり、失恋して泣きながらギターを弾いてたこともあったっけ。

 まあ、いまだに独り身なんだが……。


「最近じゃ珍しいことでもねえだろ。そのうちきっと、いい出会いもあるさ」


 大川が言った。

 そう願いたいものだな。

 それにしても……。

 お嬢さんのギターに耳を傾けながら、俺たちはお互いに顔を見合わせる。

 皆の気持ちを代弁するように、堤が呟いた。


「あんまり上手くないっすね」



――Fin.

作者は音楽はからっきしです。

本格的な演奏描写を期待された方ごめんなさいm(_ _)m

なんだかふと懐かしくなったもので……。

ロックか? はい、ロックです(断言)。

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「KAC2025 ~カクヨム・アニバーサリー・チャンピオンシップ 2025~」のお題に合わせて執筆した作品群、全五作品。
本作は第一弾です。

第一弾 本作です。お題は「ひなまつり」。コメディーです。
第二弾『サンスーシに憧れて』お題は「あこがれ」。歴史物です。
第三弾『流氷の妖精』お題は「妖精」。現実世界恋愛物です。
第四弾『ants』お題は書き出し指定「あの夢を見たのは、これで9回目だった。」。純文学(?)です。
第五弾『アルプスを越えて』お題は三題噺「天下無双」「ダンス」「布団」。歴史物です。
― 新着の感想 ―
 ストーリーのアイデアも、登場キャラのネーミング(〝小田入〟には吹きました)も、とっても面白かったです。楽しく拝読しました!
楽器を扱う五人囃子なら、ロックバンドに興味を持つのも道理ですね。 そして彼らがロックバンドに興味を持ったのは、持つ主であるお嬢さんがガールズバンドアニメに興味を持ったからなのですか。 お嬢さんの動向を…
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