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4 突貫ワークス

※この世界観での『給仕』は、雑用係(メイド等)のことを指します。

 実は私、レオーネ・フローレスは魔術師でもありました——まあ、ただ、魔術師を目指す子供や魔力が多い子供を育成する学校に通っていただけなのだけれど。


 そこでの私の成績は上の中くらい。まあ普通だった。

 特に勉強や友人関係で困ったこともない。


「……本当に、『普通』なのにな」


 小さく呟く。

 胸元のネックレスが、『婚約は現実だ』と主張しているみたいだ。

 彼から貰ったネックレスは、着けられた日からずっとそのままだ。


「(だって、()()()()()()()()()()())」


ネックレスが、外れない。これは一体どう言うことだ、とアーケル先輩に手紙を送ったら『外している瞬間に不幸が起こったら困るだろう』と返事をもらいました。そうですか。諦めました。

 後日頂いたブレスレットも同様の物でした。


 その日以来、なぜか周囲の男性から遠巻きにされるようになったけれど……なぜだろう。

 友人のハシントは、いつも通り近くに居てくれる。ただまあ、時折『静電気が起きたのよ』と手を摩るようになったかな?


 それはともかく。


 男爵令嬢である私は今、宮廷で給仕として働いている。それは、この国の子爵や男爵のような身分の低い令嬢ではあまり珍しくない。宮廷だけでなく、公爵や侯爵、伯爵の家で給仕として働く人も居る。


 これは全て、若い貴族の女性が安全に働き、かつ教養を得るための(花嫁)修行なのだ。

 無論、教養を身に付けたい平民の人だって男性だって働ける。


「おい、お前」


「は、はい!」


貴族らしき男性に呼ばれ、私は慌てて振り返った。


 今は給仕の最中だった。仕事に集中しないと。


「どうかなさいましたか?」


「用があるから呼んだまでだ。この本を片付けてこい」


「いえ、あの、私は人仕えの給仕では……」


「うるさい! こっちは忙しいんだ! さっさと仕事をしろ!」


男性はそう言うと、私に本を投げつけてきた。

 どうやら、怒っているこの人に私が『人仕えの給仕ではない』と伝えるのは逆効果だったみたいだ。人仕えの給仕はそのまま貴族の人に付き従う給仕で、私は洗濯物を運んだり掃除をしたりする方の給仕なのだ。


「申し訳ありません」


私はすぐに頭を下げる。そして、そのまま本を拾った。


「今、本を片付けて参ります」


「ふんっ」


 男性は私を睨むと、そのまま居なくなってしまった。


 仕方なく受け取った本の識別番号を見、どこの図書館の本なのか確認する。よかった。ここから近い方の図書館だ。


 本を図書館へ返却した後、別の男性がやって来た。

 彼はヴィンデ・クレクス。給仕として働いている私の先輩だ。


「レオーネさん、大丈夫? あの人になんか言われたの?」


どうやら、心配させてしまったみたい。


「大丈夫です、先輩」


「でも。最近、あの男性から変なことされてない?」


私は思わずギクリとした。どうしてそのことを? 私が不思議に思っていると、先輩はそっと耳打ちをしてきた。


「……実はね、あの男性から変な話を聞いたんだ。……君が仕事をサボってるって。……そんなこと、ないのにね」


なるほど、だから心配してくれたのか。私は納得し、そして同時に少し嬉しくなる。だってそれは、私のことを心配してくれていると言うことだから。


「ありがとうございます」


「ううん……でもさ、本当に大丈夫?」


「はい」


私はヴィンデ先輩に笑顔で答える。まあ、大丈夫じゃないのは目に見えているけど。これは私が解決するべき問題だし、ちゃんと仕事をした上で噂に対処すれば良い話だ。


「あの……あまり無理しないでね? なんかあったら相談に乗るから」


「ありがとうございます」


 それでも、私はヴィンデ先輩の言葉には甘えない。だって彼に迷惑をかけたいわけじゃないから。

 私はヴィンデ先輩に感謝しながら、仕事に戻る。ヴィンデ先輩はそんな私を見送ってくれた。本当に良い人だな。


「でもなあ……」


私は小さく呟いた。だってあの男性はよく私に変なことを言うし、明日以降も何か機会があればするだろう。

 やだなぁ、とそんなことを考えているうちにも時間は過ぎていく。……そろそろ、次の仕事を始めないといけない頃だ。


「よし!」


私は気合を入れると、次の仕事へと向かった。


×


「ええと、次は……」


 次の仕事は宮廷の小さな温室で、中では色とりどりの花々が咲いていた。どれも美しいものばかりだ。


「……綺麗」


思わず感嘆してしまう。中庭も綺麗だったけれど、温室も中々だ。


 思わず見惚れてしまうくらいだけれど、今は仕事に集中しよう。それに、温室が綺麗なのは仕方がないだろう。宮廷なんて、どこも魔術で管理してあるらしいし。


「あ、レオーネちゃんだ」

「……」

「こんにちは」


 私が温室の奥に進むと、そこには三人の男性が居た。彼らは皆同じ制服を着ている。それは、この宮廷で働く宮廷魔術師達の制服だ。私が着ているのは、給仕の制服だけれど。

 彼らとは宮廷内でたまに声を掛けてもらう程度の間柄だ。ちょっとした知り合い、みたいな。


「皆さん、お疲れ様です」


私はペコリと頭を下げる。すると彼らは口々に「お疲れ様〜」と返してくれたり、軽く頭を下げてくれたりした。


「レオーネちゃん、今日はどうしたの? 休憩中? もし暇なら一緒にお茶でもどう?」


こちらに注目する彼らに対し、私は笑顔で答える。


「いえ、今は仕事中ですので」


仕事をしないと。今回私が温室で行う仕事は、病気の植物がないかの確認だ。

 私は特殊な魔道具で、植物を見なければならない。しかし、それを彼らに引き止められてしまう。


「待ってよ、まだ良いじゃないか。周囲には俺達以外に誰もいないし」


そう言って動いたのは一番年上に見える男性だ。彼は確かリリウム・マンティス。宮廷魔術師の少し偉い人、だったような。


「痛っ?!」


その人が私の腕を掴もうとした途端、手を引っ込めた。え、何ですか?


 戸惑う私をよそに、「……チッ、リベルラスのやつか」リリウムが何か呟く。


「……ふん。魔術が掛かっていたのは目に見えていただろう。……お前には、何ともないのか?」


今度は、無口だった男性が話しかけてきた。この人はローゼ・アラネアス。私と同年代くらいかな? すごく綺麗な男の人だけど……なぜか私のことを睨んでる。どうしてだろう? そう思いつつ、とりあえず笑顔で対応している。


「なんともないですよ。心配、ありがとうございます」


私は笑顔のままローゼに話しかけた。すると彼は不機嫌そうな顔になりつつも「……そうか」と返事をくれた。そして、ぷい、と顔を背けてしまった。


 やっぱり機嫌が良くなかったのかな、なんて思っていたら、


「あ、あの」


今度は背の低い男性が話しかけてくる。この人は私より年下に見えるけど……確か、ゼルベラ・フォルミケス。見た目より結構年上らしい、という噂を聞いていた。ギャップがすごい。


「何でしょうか?」


仕事がまだ残ってるんだけどな、と思いつつ声をかけてきたゼルベラの方を見た。すると彼は少し顔を赤らめながら私を見ている……? 熱でもあるのだろうか。


「あの……」


「はい。何用でしょうか?」


すると彼はモゴモゴと口を動かしているだけで何も喋ろうとしない。一体どうしたんだろう? もしかして何か言いにくいことでもあるのかな?


「あの……?」


私はもう一度声をかけてみる。すると彼は意を決したように口を開いた。


「あ、あの……その、えっと……」


「はい」


「す、好きです! ずっと、君のこと見てたんだ」


「……へ?」


思わず間抜けな声をあげてしまった。でも仕方ないよね!? だっていきなり告白されるなんて思わないし。しかも相手は年下っぽい見た目でなんか可愛い……じゃなくて。


「えっと、ありがとうございます。でも、私には婚約者がいるので……」


私はとりあえずお礼を言うことにした。だっていきなり好きだって言われても困るし。……でも、本当にどうしよう? この後どうすればいいの……?


「婚約者とか、どうでも良いから。僕を第二夫にしてくれる? ……愛は、証明できるから……!」


なんてこと!

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