施設の意図
四人の組織名を高らかに宣言する金剛だが、目の前で犯罪に巻き込まれたという事実は、人を動揺させるには、十分すぎる要素であり、固く握りしめた右手は、火傷の痛みもあってか、確かに震えていた。
そんな動揺や痛みを振り払うように、拳を下ろしながら鐵月の方を向いて疑問に思ったことを尋ねる。
「なあ、あのおっさんは施設の職員じゃないって言ってたけど、何でそう言い切れんだ?それに、これからの俺らの動きにもお前の記憶は必要だ。施設について、知っていること全部教えてくれ。」
皆の視線が鐵月に集まる。
「わかりました。ただ、僕もあまり多くは覚えていませんので、現時点で判明していることだけお話しします。」
「佐藤さん、捕まっちゃったかぁ。まあ、そもそも期待してなかったからいいけど。」
とても太い樹のような物の前で、女性が呟く。
「また経過観察時点で失敗。思うようにはいきませんね。」
女性の横で、カルテを片手に記入を進める男性が続けた。
「佐藤0号もそろそろ限界近いし、早く後継者生まれてくれないかなぁ。」
「中々望んだ結果が出ませんね。あ、A‐5壊死。回収お願いします。
男性が耳に手を当てどこかへ指示を出す。
丸い部屋、枝のように伸びている先に壁があり、その壁には、右から左にかけてA~G。上から下にかけて1~9と順番に刻まれた部屋のように広がった穴が開いている。
「最近になって回収も増えてきたな。」
「高熱に耐えれても、灼熱に耐えられない人がほとんどですね。」
「0号は3000℃まで耐えられたというのに、何が足りないのだろうか。」
「長年研究しているのに、未だ結論が出ないのはもどかしいですね…。それじゃあ、そろそろ私は、鈴木の方見てきます。」
「了解した。僕はもう少しここに残って経過を見届けるとするよ。」
「わかりました。」
そう言って男性は部屋を後にする。
夕暮れ時、時計の針は午後5:50を指していた。
「僕らは全員、元々孤児でした。そのことを利用され、とある実験に巻き込まれてしまい、その結果、体液が変化するようになった。」
「未だに信じたくないけど、私の両親は里親で、私を引き取ったんだよね。」
「はい。そして、僕らは現在、経過観察の段階、意図的に施設から放置されている状態です。」
「でもさっき、ウチらを襲った男の人がいたよね?」
「おそらくは、特異の成長を図ったのだと思います。人同士の戦いは、僕らの精神力も同時に鍛えられますし、どちらが死んでも、施設側には大した被害がありません。」
「嫌な話だな。つーか、俺ら以外の特異持ちって後どんくらいいるんだ?あの学校にもういないなら、他のところにはいるかもしれないってことだよな?」
「他にどれだけの特異体質者がいるのかはわかりませんが、研究施設は一つだけです。」
「っていう事は!」
「ええ、そこを叩けば、僕らの目的が果たされます。」
「よっしゃ。俺らのゴール、見えてきたな。」
「思ったより早かったね。」
瓜生の発言の直後、6時を知らせる鐘が鳴る。気になることはそれぞれ抱えながらも、皆一様に、帰路へ着く。別れの挨拶を済ませ、各々が自宅へと向かって行く。
翌日
またいつも通りに学校で四人が集まり、水面の席で、昨日の続きを話した。
「なあ、施設の連中は俺らを使って何がしてえんだ?」
「特異を成長させたいってことは、やっぱり争いのためなのかな?」
「そこは僕にもわかりません。それに、僕ら自身が成長した後、施設側が何をしてくるのかも気になります。」
「ウチらを放置してるくせに特異は成長させたいってほんとに意図が分からないよ。」
水面が不満を零した数秒後、突如として北の方から凄まじい爆発音が聞こえてきた。
「なんだ⁉爆発?」
「あの方向…施設があるところだ…。」
『えっ!?』
鐵月の発言に三人が反応する。その後、職員会議をするというアナウンスが流れる。学校中が騒然としてきた最中、
「行こう。」と鐵月が呟き、走る。三人は訳も分からず鐵月について行った。
目が見えない水面を金剛がおぶって生徒玄関へと向かう。
「張斗、ウチ重くない?大丈夫?」
「俺、普段から友達をおんぶしたり、されたりしてっから今更女子一人重くもなんともねえよ。」
程なくして玄関に到着したが、下駄箱で靴を履き替えた後の鐵月が、今にも倒れそうな状態だった。
「お前、代謝悪いんだから、あんま走んなよ。」
「はあ…すみません…はあ…でも…急がないと…はあ…。」
それほど長距離走ったわけでもないのに、鐵月の体力は限界が近かった。
「そんな状態でどうやってあの爆発したとこまで行くつもりだよ。結構距離あんぞ。」
「空中を…移動すれば…目的地まで…そんなに時間は…かかりませんよ…。」
少しだけ呼吸が安定してきたが、まだまだ疲労は消えておらず、やろうとしていることも遂行できるか怪しい。
「はあ…なあ瓜生、水面任せていい?」
「うん。水面ちゃん、背中乗って。」
ため息を吐いた金剛は、水面を下ろし、鐵月を背負う。そして瓜生は、水面を背負って外に出る。人目につかないよう、校舎を回り込んで、跳び上がる。何度も跳躍して、爆発現場まで一直線に向かう。
金剛の足場は鐵月が作っており、疲労のせいか、あまり安定がしない。しかし、多少よろけながらも、金剛は跳びながら空中でバランスを取っていた。
「なあ、鐵月。」
「はい?」
「お前、体重なんぼだ?」
「何で今?」
「なんか、水面より軽い気がするんだよ。」
「一応少しでも金剛さんの負荷を減らすように瓶を浮かせてはいますけど、僕そんなに軽いですか?」
「ああ、軽い。今までおんぶした人の中で一番軽い。」
「そうですか。」
盛大な爆発があった現場では、土煙が立ち込めていた。やがて晴れてくると、三人の影が浮かび上がってきた。
先頭を歩いている制服姿のやや肥満気味な男子が一言。
「よし、”ぶっ潰す”ぞ。」