05.サボりと人間
そこにいたのは……。
がたいの良いの初老の男だった。目は鋭く、顔は切り傷だらけで俗にいう強面といった感じだ。
「なんだぁ叔父さんかぁ!」
ルーデンスは、たばこの火を消し言った。
「おいおい!勿体ねぇ~!あと2、いや3吸いはできたぞ!」
鋭い目は緩み、豪快に笑う男には先ほどの強面の気配は消え、気のいいおっちゃんに変身した。
彼の名はロジェ、ルーデンスの叔父にあたる人間だ。
彼は中央捜査部第一捜査班の班長をやっている。端的に言えば、捜査班の中で一番偉いルーデンスの直属の上司に当たる。
「いいんだよ、これで」火の消えたタバコを灰皿に押し付けながらルーデンスは言った。
「まったく、またジンクスとか言うやつか?お前も変な奴だな」
「叔父さんは分かってないなぁ、やれやれだねぇ」妙に低い声で言って見せた。
……数秒の沈黙。
「ふっ、ははは!」両者拭きだす。ほころぶ口元。響き渡る笑い声。
「ルーデンスお前、やれやれだねぇじゃねぇよ!局長の真似すんな!」
「似てたでしょ?」ドヤ顔のルーデンスが腕を組んで立ち上がる。
「お二人さんもう少し静かにしてもらっても?」
ルーデンスとロジェの間に割って入ったのは、第一捜査班のお局事務員だった。
小さい背丈にしわのある顔、腕を組み眉毛を小刻みに動かす。まさに仁王立ち。
「あ~すまんの、ケティさんルーデンスちょっと飲み行くぞ。どうせ、今日はもう仕事ないだろ?」ちらりとルーデンスを見る。
「了解だよ、いつものとこで良いんだろ?」視線を向け答える。
「ということで、ケティさんじゃあわしらはあがるから!」
「すんませんでしたぁ!」がみがみと言うケティをしり目に、二人はそそくさと部屋を出る。
「あのおばさんいつも難癖付けてくるんだよなぁ~」ルーデンスが茶化すように言った。
「なぁ!がみがみうるさいんじゃよな!俺のほうが階級上だぞ!」ロジェも返す。
この二人は似ているからか、すごく気が合う。めんどくさがり屋、冗談をよく言う、口うるさい人間が苦手、など共通点は多い。
あえて違うところを上げるとするなら、ロジェは役職のせいで嫌でも仕事が来るところだろうか。
しかし、その仕事もどうにかサボろうとするから、あまり違いであるか難しいところではあるが……。
「ルーデンス言い忘れてたけど、退勤処理ちゃんとしとけよ~!」
廊下を歩きながらロジェが言った。
昨今、公的な仕事では様々な改革が行われた影響だ。
アルカナエネルギーの発展により様々なインフラが整備された。それに伴い、働き方も近代化と効率化をしたいという御上の考えらしい。
その影響で、中央捜査部には出勤時と退勤時に端末を専用の機器に通さないといけない。
捜査官は基本的に、事件が起きればどこにいようと即出動だ、いつ何時事件が起こるか分からないため、出勤や退勤があいまいになりがちな仕事だ。
そこに、出勤や退勤処理が加わったせいで、事務員に余計な負担をかける結果となっている。
御上は現場を知らないのはいつの時代も同じらしい。
「めんどくさぁ~まぁしゃーないかぁ」
頭をポリポリ搔きながら、青白い長方形の端末を取り出し機器に近寄せる。
すると、ポーンという間の抜けた音と共に、端末に文字が映る。
(お疲れ様です。ルーデンス捜査官。退勤を確認。同行のアリス助捜査官の退勤処理がされていませんが、どうしますか?)
まったく、便利なものだなぁ。何でもかんでもこの端末で分かるのか。
しかし、アリスに退勤処理教えてなかったなぁ~と考えながら文字を入力する。
(アリス助捜査官は一時間半ほど前に退勤した。処理しといて。)
「これで良しと」入力を終え、ふと思う。アリス大丈夫かなぁ。まぁ芯は強そうだけど。
「おい~置いてくぞ~!」ロジェはいつの間に出口付近にいた。
「今行くよ~!」ルーデンスはロジェの方に駆け出した。




