04.撃ち抜かれた理想
男の頭部は撃ち抜かれ、トクトクと血が滴る。熱を帯びたアスファルトに赤いシミが広がる。
ワンテンポ遅れて市民達が悲鳴を上げる。四方八方に逃げ惑う者、何も理解できずただ立っている者、様々だ。
惨状。この場に適した言葉だとルーデンスは思った。
ルーデンスは、銃を倒れた男の方に向け握りしめている。トリガーは引かれ、銃口から仄かに煙が上がっている。
ルーデンスが男を射殺した。
――さかのぼること数秒前。
「や、やらなきゃ。みんなを守る為に……」男は懐から銃を取り出す。銃口をアリスたちの方向に向ける。
瞬時にルーデンスは懐から銃を抜く。銃は少し型落ちの回転式拳銃だ、持ち手に金色でエブリンと刻まれた装飾が特徴的だ。
銃口は当然のように男の顔面にピッタリと向いている。
間髪入れずルーデンスはトリガーを引く、銃口が火を噴き鉛の弾丸を吐き出す。回転し加速した弾丸は男の頭に吸い寄せられるように飛び、男の頭部にめり込み一凛の赤い花を咲かせた、否風穴を開けた。ルーデンスは顔色1つ変えずじっと男の死体を眺めている。この間瞬き数回ほどの短時間で行われた。
時は戻り現在。ルーデンスは立ち尽くすアリスの方に向かう。
「あーちゃん?大丈夫、けがない~?」気が抜けた声。
アリスはハッとしたように我に返る。
「け、けがはないです……」腐っても捜査官らしい、パニックの市民達と違い即座に持ち直した。
しかし、動揺が隠し切れない。
「今から本部に連絡するから、待機してて~」
「わ、分かりました……」
ルーデンスは懐から長方形の箱を取り出す。それを耳に当てた。
すると箱は青白く光り、先端についた棒から、半透明の白い糸のようなものが鉄塔に向け飛ぶ。
「もし、こちら、アソビニン本部応答願う。繰り返す、こちら、アソビニン本部応答願う」
箱に話し数秒後、半透明の白い糸のようなものが今度は鉄塔から、棒の先端に飛ぶ。
「こちら本部、どうしたアソビニン?どうぞ」しがれた男の声が箱から聞こえた。
「ジェヴォーダン地区の噴水に、デモ行為を行う男を発見。その後、ワレ及びノウサギに対して銃を向けたため射殺。」
「死体処理のため人員を要求。具体的状況はのち程報告する、どうぞ」
「本部了解。人員到着まで現在地でアソビニンとノウサギ待機せよ、どうぞ」
「了解、通信終わり」
箱の光が消えた。箱を懐にしまいルーデンスはアリスに言った。
「これが捜査官の本当の仕事だよ、教範や教育学校では教えられない。市民を助けると言えば聞こえはいいんだけど、実際のところは危険人物の殺害や拘束が主な業務になる」だから安持部に任せたかったんだけどねとごにょごにょ言った。
「まぁ、一概にこれが全てではないんだけどね。うちの班はこういう荒事が多い、面倒だけどねぇ~」
「……1つ質問してもいいですか?」アリスは俯きながら聞いた。
「なんだい?」
「さっきの男を、殺す必要はあったんですか?」
「答えは簡単だよ、殺さないと殺される危険性があった、ただそれだけの話だ~」いつものようにおどけて返す。
「銃だけを打ち落とす、いやそれが出来なくてもせめて、手か足を撃ち捕獲もできますよね?」
「確かに教範通りにいくとそうなるよね~でも、もし犯人が別の武器を持っていたら?」
「そうなると殺す方が確実なんだよ。実際問題あーちゃんと俺は、殺される危険性があったんだから」
「でっ、でもどうなんですか!デモ犯が銃を向けたから殺すっていうのは、捜査官としてなにかダメなんじゃ……」
烈火の形相でアリスが、怒鳴り段々しどろもどろになる。自分の中でも、矛盾を理解している、後ろめたさがあるのだろう。
ルーデンスはおもむろにタバコを加え火をつけた。タバコを吸うと同時に先端が仄かに赤く光る。ふぅーと寒い日の息のように白い煙を吐いて言った。
「そのことについてはまた今度にしよう、もう少しで増援が到着する」
増援が到着してから嵐のように時が過ぎた。検視や状況説明などを行ったのちルーデンスは本部で待機、精神面を心配されたアリスは帰宅を命じられた。
アリスはどこか安心したような、苦虫を嚙み潰したような、複雑な顔をしていた。
一方ルーデンスは、本部の第一捜査班のデスクでタバコを吸いながらボーっとしていた。暢気なものだ。
するとどこからともなく……。
「おいルーデンス!」野太い声。ルーデンスはタバコの火を消し声の方を見た。そこにいたのは……。