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巡る悪夢は闇へ消え行く

(くそ……っ、くそ!)


 内心で悪態をつくしかなかった。

 想定外の事態にリィンとセシルを見失い、キース――俺自身は目の前の巨大なゴーレムから向けられる殺気で身動きが取れない。

 突然起動した遺跡の罠であろうその仕掛けは周囲の景色を一変させ、迷宮となったその舞台に次々と役者が顔を出す。


(リィンとセシルは地下の階層にいるな。結界で無事なはずだが油断はできない)


 目の前の敵を牽制しつつ探査の術を駆使すれば、見事に散り散りとなった仲間の位置が脳裏へと伝えられる。

 足元に現れた迷宮は規則正しい壁で隔たれ、エリカとカレンディア殿下が落ちた広い地下空間とは別物のようだ。その出口を手繰れば神殿へと行きつき終着点はアキュベリーのいるであろう最奥の部屋となる。

 手っ取り早く合流するため地面を突き破りたいところだが、魔力の通った地面は強固でありそれをするには骨が折れる。


(どの道、目の前の障害を排除せねば何も出来んか)


 禍々しさを湛えた赤い魔石がこちらを睨む様に光を放ち、やがて、動く。

 次の瞬間にはその巨大な岩の拳が高々と持ち上げられ、頭上へと振り下ろされる――デカいくせに動きが速い!

 咄嗟に指を弾けば俺の足元の土塊が空へ向かって突き上がりゴーレムの拳を受け止め、その隙に後方へと大きく飛び退く。

 ……たまたま地に魔力を流していたから凌げたが次はこうはいかない。

 打ち砕かれた土塊の残骸を悠々と越えてくるゴーレムが忌々しい。距離をとりながら再び悪態をつく。


(そもそも魔術師というのは一人で戦うものではない。前衛で攻撃を受け止める役がいてこそ戦闘が成り立つものだ)


 それは術式の構築に時間を要するが故であり、強力な術ほどその隙は大きくなる。


 (ならば、最小限の魔力で済ませればいい)


 一瞬だった。再びゴーレムが間合いを詰めその両腕を振りかざした刹那――その胸を細く鋭い閃光が貫き、支える力を失った腕は体は、地へと降り注いだ。

 敵を撃破したところで余裕に構える暇はない。

 再び周囲の様子を探れば、すぐ足元に在った二人分の気配は前方へと移動しているようだ。俺がゴーレムを相手にしている間に魔力の反応を感じたが、セシルがうまく対応したのだろう。頼りになる義妹だ。

 しかし地下にもゴーレムが出現したというのならそれは非常にまずい事態である。それはすなわちこの遺跡中に多くのゴーレムが潜んでいるという事に他ならない。

 嫌な想像の中で人差し指を眉間に当て、集中力を一段階引き上げる。探査の精度がぐっと増せば、それまでには見えていなかった小さな魔力の結晶の存在が浮き彫りとなる。……恐らくゴーレムの核であろう。

 その数20は下らない。近付けばたちまちにその本来の姿を現し、侵入者に対し攻撃を仕掛けてくるのだろう。想像すれば、ぞくりと冷たい汗が背中を伝う。


(この遺跡は元々は王家の主導により魔術師の保護のために作られた物だろう、いくら何でも攻撃的すぎやしないか? この殺意は一体何に、誰に向けてのものなのか。……まさかリィンが危惧する通り、王家?)


 憎悪すら感じ取れるその造りに思わず眉を寄せる。同時に、馬車の中で見たエリカの不安げな顔が頭をよぎる。


(エリカは酷く怯えていた。その理由は……いや、それは事が済んだら本人から聞けばいい。今は――)


 何の心配もいらない、そう約束した。彼女の笑顔を守るため、友や大事な人たちを守るために俺がすべきことはたった一つ。

 

(迷う必要はない)


 自分に言い聞かせるように一つ息を吐くと、俺は懐へと手を滑り込ませ、そこへ潜ませていた物をするりと取り出す。

 手の平二つ分ほどの長さの、細い棒。握り部分から先端にかけ細くなる黒い軸は魔獣の角から削り出されたもので、その形を変えても存在感を失うことはない。持ち手と先端には銀の細やかな装飾が施され美術品としても遜色のない見栄えである。


(魔術杖、使うのは()()事件以来か)


 それは思い出したくもない12年前の己の失態。友人の足に消えぬ咎を残したその出来事以来、杖に忌避を感じる様になり握ることは一度もなかったのだが。


(不思議としっくりくるものだ。……エリカのおかげか)


 それは、妻からの贈り物。俺を現す黒と銀を基調とした美しく煌めく杖。それを握りしめ目の前に掲げると――静かに詠唱を開始する。

 魔術杖とは体内の魔力を統制する指揮棒のようなものだ。手でも問題なく行えるものだが杖を使うことでより繊細にその動きを制御することが出来る。

 体内に巡る魔力を詠唱で紡ぎ魔方陣を編んでゆけば複雑に絡まりながら緻密な文様を描き、それらが連なり――やがて一つの巨大な陣となる。


(ゴーレムの核となる魔石、それらに繋がる魔力をすべて断ち切る――!)


 くいと魔術杖を操れば日が陰り、帳が降りたかのように遺跡が闇に包まれる。風は感じられるが植物や動物たちは息をひそめる様にその気配を殺し、静寂が辺りを支配する。

 唯一存在感を示す上空を覆った魔法陣が激しく回転していた動きをぴたりと止め――黒き槍が地面目掛けて一斉に降り注ぐ。

 それらは地中奥深くに潜む標的を捉えると的確に打ち抜き、やがてすべてが霧散する。

 一瞬のうちに事は済み、光と音を取り戻した遺跡は変わらない景色を見せている。


「案外、自然にできるものだな」


 思いのほかあっけなく、出番を終えた黒の魔術は舞台から袖へと消えた。手元へと視線を下ろし魔術杖を握りしめていた手をゆっくり開いて見ると、赤く跡がつきじっとりと湿っている。随分と力んでいたらしいその手だが今は何の支えも感じない。

 それがはっきりと分かるほどに自分は過去に捕らわれていたのだと実感すると、自然と苦笑いがこみ上げてくるものだ。


(この杖は俺の過去を話す以前から準備されていたものだ。当然何の意図もないのだろうが……エリカには、頭が上がらんな)


 彼女はいつでも予想外の行動を起こし、俺の迷いを歯牙にもかけずに蹴散らしていく。


「さあ、妻と友人を迎えに行こう」


 左手に光る銀色の指輪に軽く口づけを落とし、迷いも立ち消え軽くなった足取りで進み出す。

 はぐれている他の面々の気配も一点へと向かい動き出している。向かう先は当然神殿の最奥、厄介者が身を隠すその場所だ。

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